我が国では筋萎縮に伴う運動機能低下が大きな社会問題になっている。そのため、筋量調節の分子機構の解明は、筋萎縮の予防や改善につながる可能性がある。申請者は、これまでに、骨格筋プロテアソームは、骨格筋量の維持に必須であることを報告してきた。本研究では、筋幹細胞におけるプロテアソームの役割について焦点をあて、研究を進めた。本研究では、初めに、筋幹細胞でのみプロテアソーム機能不全を誘導できるマウス(KOマウス)の作出に成功し解析した。個体レベルでタモキシフェンを腹腔内投与することで、遺伝子欠損を誘導した。その後、FACSを用いて筋幹細胞を単離後に、プロテアソーム活性を調べたところKOマウス由来の筋幹細胞において、有意な活性減少を確認し、系が妥当であることを確認した。更なる解析により、このKOマウスではプロテアソームによるタンパク質分解が抑制され、KOを誘導してから約2週間で筋幹細胞が減少し、骨格筋の再生が正常に行われないことが分かった。さらに、培養細胞を用いて解析した結果、KOにより筋幹細胞の増殖および筋分化能が抑制され、細胞死が誘導されることも分かった。また、この細胞増殖抑制や細胞死の際に、細胞増殖などに関わる老化マーカーとして報告されているp53の活性化を見出した。これらの結果により、骨格筋幹細胞においてタンパク分解系の機能不全を起こすと、老化マーカーが急速に亢進することがわかった。本研究では、タンパク質分解系が筋幹細胞を維持するために必須であり、それらの破綻は骨格筋再生不全を引き起こすことを明らかにした。本研究は、骨格筋や筋幹細胞において、タンパク分解系の調節は老化を妨げるための重要な因子であることを示唆した。骨格筋や骨格筋を構成する筋幹細胞の老化における役割の解明には、更なる研究が必要である。
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