本研究は、スポーツ外傷が慢性化へと移行する神経系の時系列的な過程を明らかにすることを目指し、神経生理学的アプローチ、臨床的評価アプローチによる検証を実施してきた。 神経生理学的アプローチとして、第1にスポーツ外傷の代表例である足関節捻挫後の皮質脊髄路興奮性の変容を時系列的に検証した。特に、皮質脊髄路興奮性の入出力特性(閾値、最大傾斜、定常値)、抑制性指標(サイレントピリオド)を評価し、受傷頻度別(初回足関節捻挫群、足関節捻挫再受傷群)で中枢神経系を介した運動制御機構の回復過程が異なってくることを明らかにした。第2に、皮質脊髄路興奮性と立位動作、動的バランス動作との関連性も検討を進めてきた。立位動作では、皮質脊髄路興奮性の最大傾斜(Gain)がCAIT(慢性的足関節不安定性の指標)に関連しており、慢性度合いが高いほどGainで補正している可能性が明らかになった。第3に、Star Excursion Balance Testによる動的バランス評価と皮質脊髄路興奮性との関連性を検証した。その結果、スポーツ動作における軸足と非軸足によって動的バランス機能と皮質脊髄路興奮性との関係性が異なることが明らかになった。第4に、経頭蓋磁気刺激法によるマッピング指標評価を実施した。特に、片脚立位バランスにも関与する筋として大腿部より大腿直筋、下腿部より前脛骨筋を標的として、大脳皮質における両筋の支配領域をそれぞれ評価した。その結果、大腿直筋と前脛骨筋の支配領域の重複度合いが明らかになりつつある。以上の観点より、スポーツ外傷の慢性化予防につなげるべく神経系指標を基にしたリハビリテーションプログラム作成につながることが期待される。 一方で、皮質のマッピング評価に関しては、足関節捻挫受傷後からの時系列的変容を明らかにすることができなかった。この反省を踏まえて、今後検証を続けて、一定の成果を引き出していく必要がある。
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