脂肪組織の熱産生機能の向上は白色脂肪細胞から褐色脂肪細胞への転換など脂肪細胞の機能変動により制御されている。近年には、脂肪細胞機能の転換の現象は脂肪組織に局在する免疫細胞により調節されることが解明されてきた。運動トレーニングは皮下脂肪組織の熱産生機能を変化させることが知られているが、この現象の分子メカニズムについての全容は未だ不明である。そこで、本研究では、自発走による運動トレーニングモデルを用いて、運動による脂肪組織の熱産生機能の変化に免疫細胞が関与するのか否かを検討することを目的とした。実験には10週齢のC57/BL6J雄マウスを用いて、回転かごが付属したケージで3週間飼育することで運動トレーニングを負荷した。運動トレーニング期間24時間前から3日毎に好中球の組織浸潤を阻害する抗体を投与した。運動トレーニング期間終了後に、マウスから鼠径部皮下脂肪組織を採取して、Total RNAを抽出した。mRNA用のシーケンス用ライブラリーを調製して、大規模並列シーケンサーにより、mRNA発現量を網羅的に解析した。運動トレーニングにより皮下脂肪組織での熱産生機能を制御するPGC-1やミトコンドリアの呼吸鎖酵素複合体であるCox7bなどのmRNA発現量が増加することが示された。一方で、好中球の浸潤阻害抗体の投与によるPGC-1やCox7bなどのミトコンドリアの呼吸鎖酵素複合体のmRNA発現量への変化は示されなかった。したがって、運動トレーニングによる脂肪組織の熱産生機能の変化には好中球は関与しない可能性が考えられる。
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