女性ホルモンであるエストロゲンは、骨代謝において重要な役割を有することや筋損傷に対して保護的に作用することが知られている。昨年までの男性を対象とした検討において、エストラジオールの合成酵素であるCYP19A1 rs936306 C/T多型のTT型は、疲労骨折の受傷率が低いことや長時間運動による筋損傷に対して保護的に作用することを明らかにしている。しかし、CYP19A1 rs936306多型が若年男性の血中エストラジオール濃度に及ぼす影響は明らかにされていなかった。そこで、若年男性167名を対象に、血中エストラジオール濃度とCYP19A1 rs936306 C/T多型の関連を検討した。その結果、これまでの傷害に関するデータを支持するように、TT型を有する若年男性ではCC+CT型を有する者よりも血中エストラジオール濃度が高いことが明らかになった。 エストロゲンは組織において、エストロゲン受容体を介して作用することから、エストロゲンの作用にはエストロゲン受容体の発現量も重要になる。そこで、エストロゲン受容体の発現量に関連する遺伝子多型であるESR1 rs2234693 T/C多型と血中エストラジオール濃度に関連するCYP19A1 rs936306 C/T多型の組み合わせの影響を検討した。成人男性122名において長時間運動後の筋損傷マーカーに及ぼすこれら二つの遺伝子多型の組み合わせの影響を検討したところ、エストロゲン受容体の発現量が多く、血中エストロゲン濃度が高いと考えられる遺伝子型を有する男性において、長時間運度後の筋損傷マーカーの増加が抑制されることが明らかになった。これらの結果から、ESR1 rs2234693多型やCYP19A1 rs936306多型は、男性において傷害のリスクを予測するためのバイオマーカーとなる可能性が示唆された。
|