令和3年度は、令和2年度に成果報告として学会発表したなわとび課題とボール投げ課題の二つの事例のうち、ボール投げ課題の事例について詳細な分析を行い、学術論文としてまとめた。すでに令和2年度中にも学術論文として投稿を試みたが、生態心理学的な理論的背景からの展開に課題があることや、分析方法の妥当性について指摘があった。そこでそれらの指摘を受け、改めて投動作の発達の軌跡と課題との相互作用を分析した。その結果、観察された動作は大小の変動を繰り返しており、とくに的当て課題からネット課題(ネットの向こう側に向かってボールを投げる課題)の移り変わりの瞬間に発達的に重要な不安定な局面が示されることが明らかとなった。このことから、課題の制約が対象児に対して強く働きかけていることが示された。動作の変動が急激な局面では、課題に直面した時の本人の心理的な状況が、運動遂行時の注意の向け方に影響を及ぼし,最終的な動作の表出に影響を与えていた。この運動発達の軌跡は、出会った課題に応じて自分に適合した方略を探すプロセスであると考えられた。 また令和3年度は、これまで本研究課題で得られた知見を、体育系の科学雑誌「体育の科学」と特別支援教育に関する雑誌「特別支援教育研究」に報告し、その成果を広く関連分野に発表した。様々な分野で特別支援教育の重要性が指摘されている今日、個々の運動発達の捉え方や変化のプロセスに着目する本研究は、関連分野において意義があるものであると考えられる。今後は引き続き学術論文としての掲載に尽力していく。また本研究を通して、環境との相互作用を生態心理学的なアプローチから分析することが必要であると考えられた。次の研究課題として取りかかっていく。
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