私たちが運動を遂行する際,重力(1G)は私たちの身体を鉛直下方向へ牽引するが,私たち(中枢神経系)はその牽引作用を考慮することで巧みな運動制御を可能にしている.種々の先行研究において,私たちは重力の牽引作用を単に考慮して運動制御するだけでなく,その作用を活かして運動制御していることが示唆されている.特に鉛直方向への運動課題において,重力の牽引作用を利用することで,方向特異的な(鉛直方向間で異なる)キネマティクスを生むことが示唆されている. 2019年度は,運動制御における重力利用についてより一層の理解を図るべく,鉛直上下方向への上肢運動を課題とする実験に取り組んだ.実験参加者は,鉛直上下方向に設置されたターゲットに対して,3つの運動速度(高速,中速および低速)での到達運動課題を行った.実験参加者による上肢運動の様子をモーションキャプチャシステムで測定した(行動学的観点からアプローチ).その結果,鉛直上下方向(および運動速度条件)間で,キネマティクスの相違を確認することができた.また,運動に伴う筋の活動も測定し(生理学的観点からアプローチ),鉛直方向への上肢運動において,重力がどのように利用され得るかについて検証を行った. なお,2018年度には本研究に関連する先行研究のレビューを行い(「心理学ワールド84号」にて公開),2019年度には実験を遂行した.本研究期間を通して,運動制御における重力利用に関する知見を蓄積することができた.
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