研究課題/領域番号 |
18K17874
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研究機関 | 同志社大学 |
研究代表者 |
加藤 久詞 同志社大学, 研究開発推進機構, 特別研究員 (30780275)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | 脂肪由来間葉系幹細胞 / 脂肪細胞 / 老化 / 肥満 / 運動 / メラトニン / 活性酸素種 |
研究実績の概要 |
加齢に伴う組織幹細胞の変化は,ステムセルエイジングと呼ばれ,Hallmarks of Agingとして知られる加齢変化の特性の中でも本質的なものと認識されつつある。ステムセルエイジングの原因のひとつとして,過剰な活性酸素種の発生が考えられている。そこで本研究は,細胞移植医療の有望な細胞ソースとして期待される脂肪由来間葉系幹細胞(ADSC)を対象に,抗酸化酵素の働きを高める運動および強力な抗酸化作用を有する松果体ホルモンのメラトニンがステムセルエイジングの予防・改善に効果があると仮説を立て,その効果および作用機序の解明を目的に遂行する。本年度は昨年度より開始した老齢ラットの飼育の継続と8週間の介入実験を実施した。老齢ラットは8週齢のWistar雄性ラット(n=30)を対象として,1週間の順化飼育後に通常食摂取群(n=12)と超高脂肪食摂取群(n=18)に群分けし,20ヶ月齢まで自由摂食・飲水で飼育した。その後,通常食摂取+非介入群(ND+SED),通常食摂取+メラトニン群(ND+MEL),超高脂肪食摂取+非介入群(HFD+SED),超高脂肪食摂取+メラトニン群(HFD+MEL),超高脂肪食摂取+運動群(HFD+EX)の5群に分け,8週間介入した。なおメラトニンの投与量は7.5mg/body weight kg/dayとし,運動は回転ケージを用いた自発走運動モデルを採用した。メラトニン投与および運動は,非介入群と比較して,内臓脂肪量を顕著に減少させた。また皮下脂肪として鼠蹊部脂肪組織,内臓脂肪として精巣周囲脂肪組織からそれぞれADSCを単離し,脂肪細胞への分化能を検討した。その結果,メラトニン投与は非介入群と比較して,脂肪細胞への分化が促進することが明らかとなった。今後は,ADSCに及ぼすメラトニン,運動の作用機序の解明のためにRNA-seqによる網羅的解析を予定している。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度は,前年度から開始した老齢ラットの飼育の継続ならびに8週間の自発運動,メラトニン投与の介入実験の実施,さらに運動,メラトニンの介入が単離したADSCの脂肪細胞への分化能に及ぼす影響を検討した。その結果,メラトニン投与がADSCの分化能を改善することが示され,この知見は当初の仮説通りにADSCの分化能には活性酸素種が大きく関係している可能性を示唆しており,今後の研究の発展性を担保している。以上のことから,当初の研究計画,目的を概ね達成したと判断し,おおむね順調に進展しているとした。
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今後の研究の推進方策 |
今後は,前年度飼育した5群(通常食摂取+非介入群(ND+SED),通常食摂取+メラトニン群(ND+MEL),超高脂肪食摂取+非介入群(HFD+SED),超高脂肪食摂取+メラトニン群(HFD+MEL),超高脂肪食摂取+運動群(HFD+EX))の老齢ラットに,15週齢の若齢ラットを加えた6群から単離したADSCを対象に,RNA-seqによる網羅的解析を実施し,加齢,肥満,運動,メラトニンの影響を詳細に検討する。得られたシーケンスデータを遺伝子発現解析ソフトを用いて解析し,ステムセルエイジングの原因遺伝子(群)の候補を同定する。想定通りの結果が得られた場合には,候補遺伝子に対するプラスミドベクターを構築し,ADSCに遺伝子導入,あるいはsiRNA(small interfering RNA)を導入したADSCを作製し,候補遺伝子の機能解析を行う予定である。また前年度までの結果より,ADSCの分化能には活性酸素種(ROS)が大きく関与する可能性が示唆された。そこで,ADSCの多分化能に及ぼすROSの影響も合わせて検討したい。メラトニンなどの抗酸化物質を用いて,ADSCの多分化能に及ぼす影響,さらには抗酸化物質の濃度や添加タイミングの最適化までを視野に入れて検証する。
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