加齢に伴う組織幹細胞の変化は,ステムセルエイジングと呼ばれ,Hallmarks of Agingとして知られる加齢変化の特性の中でも本質的なものと認識されつつあり,ステムセルエイジングの原因のひとつとして,過剰な活性酸素種の発生が考えられている。そこで本研究は,脂肪由来幹細胞(ADSC)を対象に,抗酸化酵素の働きを高める運動および強力な抗酸化作用を有する松果体ホルモンのメラトニンがステムセルエイジングの予防・改善に効果があると仮説を立て,その効果および作用機序の解明を目的に遂行した。 老齢ラットは8週齢のWistar雄性ラットを対象として,通常食摂取群と超高脂肪食摂取群に群分けし,20ヶ月齢まで自由摂食・飲水で飼育した。その後,通常食摂取+非介入群(ND+SED),通常食摂取+メラトニン投与群(ND+MEL),超高脂肪食摂取+非介入群(HFD+SED),超高脂肪食摂取+メラトニン投与群(HFD+MEL),超高脂肪食摂取+運動群(HFD+EX)の5群に分け,8週間介入した。なお運動は回転ケージを用いた自発走運動モデルを採用した。介入後,皮下脂肪として鼠蹊部脂肪組織,内臓脂肪として精巣周囲脂肪組織からそれぞれADSCを単離し,脂肪細胞への分化能を検討した。その結果,老齢ラットから単離したADSCの脂肪細胞への分化能は,若齢ラットのそれと比較すると顕著に低下することが明らかとなった。さらにメラトニン投与群ではその他の群と比較して,加齢によるADSCの脂肪細胞への分化能の低下が改善されることが明らかとなった。以上より,抗酸化能の亢進は,ステムセルエイジングを予防,改善する可能性が示された。
|