研究課題/領域番号 |
18K17877
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研究機関 | 久留米大学 |
研究代表者 |
岩田 慎平 久留米大学, 医学部, 助教 (10749526)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | 生活リズム / 2型糖尿病 / 運動療法 |
研究実績の概要 |
生活習慣病患者における概日リズム異常と生活介入による効果を検証する目的で研究を行っている。2型糖尿病患者において、心拍変動による自律神経活動を評価したところ、健常者と比較して乱れが生じており、特に夜間の副交感神経活動の低下が著しかった。夜間の副交感神経活動は睡眠とも関連があり、また副交感神経活動の低下に伴う交感神経活動の相対的上昇は血糖値や血圧の上昇の原因となる可能性が考えられ、自律神経活動に焦点を当てた介入方法が効果的であると考えられる。 運動療法は虚血性心疾患や心不全患者において自律神経活動の異常を是正するという報告があり、糖尿病患者に対する運動介入が自律神経活動の改善に有効である可能性が考えられた。そこで2型糖尿病患者に対して運動介入を行い、自律神経活動の変化を観察することとしたが、短期間の運動介入では自律神経活動の明らかな変化は得られなかった。長期間の運動介入については患者を対象とした場合に十分に実践できないことも多く、運動療法を実践できたかどうかによってバイアスが生じる可能性があったため、2型糖尿病モデル動物を用いた実験を行うこととした。 2型糖尿病モデルマウスであるdb/dbマウスはレプチン受容体遺伝子の変異マウスであり、通常のマウスでみられる明暗リズムのサイクルに障害が生じていることが報告されている。特に食行動異常がみられ、明期にも摂食行動がみられることから、肥満となり慢性の高血糖状態を呈する。db/dbマウスに対してトレッドミルを用いて運動介入を行ったところ、血糖値や体重に変化はみられていないが、呼吸商の測定結果において変化がみられており、生体内のエネルギー代謝に影響を与えている可能性がある。今後、食行動を含めた活動についても評価を加える予定にしている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究課題では2型糖尿病などの生活習慣病患者を対象とした臨床研究で実施する予定にしていたが、人を対象とした研究では運動介入の効果が十分に得られなかったこともあり、db/dbマウスを用いた動物実験に移行した。しかしながら、運動介入による生活リズム異常の改善効果を解明するという目的は変化しておらず、研究方針が変化していないと考える。 db/dbマウスを用いた実験において、生活介入を行っていないマウスの呼吸商は明期・暗期ともに同レベルで推移しており、エネルギー代謝の明暗リズムが欠如していた。そこにトレッドミルを用いた強制運動を加えることでエネルギー代謝の明暗リズムが出現しており、運動が生体内のエネルギー代謝にリズムを与えている可能性が示された。その背景については摂餌パターンや活動リズムの関連や、肝臓や腎臓、筋肉、脂肪などの糖代謝に関連する組織・細胞でのグルコース代謝や脂質代謝のメカニズムが変化している可能性が考えられる。 現在までにdb/dbマウスの活動および摂餌量の測定、呼吸商の測定について、一定個体数を実施しており、今後その解析を進めていく方針である。また、介入群・非介入群における明期および暗期の血液・臓器サンプルの採取も行っており、それらにおいて代謝に関連する蛋白やmRNAなどの解析を行う準備は整っている。 以上のことから本研究については当初の方針とは異なるものの、順調に進展していると考える。
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今後の研究の推進方策 |
本研究課題については当初の予定で2型糖尿病患者や肥満症などの生活習慣病患者を対象とした研究を行う方針であった。しかし、運動介入については対象となる患者が適切に実践できないなど、バイアスが加わる要因があったため、モデル動物での実験に切り替えた。それにより、db/dbマウスにおいて生体レベルでエネルギー代謝の明暗リズムが消失し、運動介入により是正されるという結果が得られた。今後、そのメカニズムの解明を進める予定である。 更に、本研究の最終目標は生活習慣病患者において、生体リズムの改善に着目した治療法を見出すことにあるため、動物実験で得られた結果を踏まえて生活習慣病患者における運動療法の効果について検討を進めていきたいと考えている。db/dbマウスにおける実験から生体リズムの改善に寄与する細胞内シグナル伝達や、それらを評価しうる指標となるバイオマーカーなどが判明すると期待している。その上で、そのバイオマーカーをターゲットとした介入を行うことで生活習慣病患者における生体リズムを改善させ、血糖値や血圧、脂質などの代謝状態を改善させることが可能となる。 今後の研究においては動物実験で生体リズムの改善に寄与する因子を解明し、その因子を改善させることが生活習慣病患者の病態を改善させることにつながるかどうかを検討し、最終的にはその介入方法を生活習慣病における有効な治療法として確立させることを目標とする。
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次年度使用額が生じた理由 |
本研究において当初の予定とは異なり動物実験での検討を行うこととなったため、予定していた資材の購入を行わなかったことが今年度分の使用が少なかった理由である。しかしながら、次年度に各種臓器の蛋白発現を確認する予定であり、その試薬等の購入を行う予定である。
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