マラソン誘発性の筋損傷の要因として,メタボリックストレス(活性酸素による酸化ストレスなど),メカニカルストレス(脚への衝撃),フォームの崩れなどが考えられることから,これらの指標と筋損傷,筋肉痛ならびにマラソン時の速度変化(終盤の低下率)との関連性を検討することを目的とした.マラソン大会参加者26名を対象者とし生化学指標,ランニング指標を検討した. 終盤の速度低下が20%を超えるランナーでは,マラソン直後の筋損傷指標が大きく,終盤の速度低下が大きかったランナーほど,終盤のストライド長が短く,ストライド頻度が減少していて,マラソン中に多くのステップ数を必要としていた.また,マラソンステップ数と筋損傷間接指標は正の相関関係を認めた.一方,筋損傷指標である血清クレアチンキナーゼ等と血清酸化ストレス(d-ROMs),血清抗酸化力(BAP)との間に関連性を認めなかった.これらのことから,メタボリックストレスよりはメカニカルストレスが筋損傷に及ぼす影響は大きいと考えられた. 映像から,遊脚期股関節最大伸展角,遊脚期股関節最大屈曲角,支持期の膝関節最大屈曲角,遊脚期膝関節最大屈曲角,支持期足関節最大背屈角,遊脚期足関節最大底屈角を分析した.走速度で除して標準化した6ヶ所の角度において,8㎞地点と比べ38㎞地点で有意に高値を示した.また,前半に比べた終盤の速度低下率と2地点の標準化した角度の変化率の関連性を検討したところ有意な強い相関を示した.これらのことから,マラソン序盤に比べて,終盤に走フォームが変化し,その変化が大きいランナーは速度低下が大きいことが明らかになった. マラソンの壁と考えられる終盤の速度低下の大きいランナーは,フォームの変化が大きく,筋損傷指標が大きかった.トレーニングによってストライド長やフォームを維持することは,マラソン誘発性筋損傷を軽減する可能性が示唆された.
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