本研究は神経疾患患者を対象に、脳損傷の観点から社会的認知機能の背景にある神経メカニズムを明らかにすることを目的とした。最終年度は、主に前年から継続している疾患群(パーキンソン病患者)のデータと年齢・性別を合わせた健常対照群のデータ取得を中心に進めた。 前年までに取得したデータの一つとして筋強直生ジストロフィー患者に対し行った行動学的及び脳画像データの結果、心の理論課題では健常対照群に比べ有意に成績が低いことを示した。一方で表情認知課題では怒り/嫌悪表情の処理において疾患群で有意差な課題成績の低下をみとめた。さらに心の理論課題における成績の低下と社会参加の指標であるCHART-Jの認知関連項目には中程度の相関関係が示された。SPECT画像データの解析では、心の理論課題の成績と前部帯状回、眼窩前頭前皮質で有意な相関がみられた。 もう一方の対象疾患であるパーキンソン病患者に関しても同様にデータ解析を行った結果、心の理論課題では健常対照群と課題成績で有意傾向を示し、表情認知課題では怒り/嫌悪表情の処理において疾患群で有意差な課題成績の低下をみとめた。心の理論課題における成績とCHART-Jの認知関連項目のスコアとは有意な相関はなかった。脳構造画像データの解析では、心の理論課題の成績と後頭葉領域と相関がみられ、SPECT画像データの解析では眼窩前頭前皮質と有意な相関がみられた。ただしPD患者と比較する健常対照群(高齢健常者)の人数がやや不足していた。加齢の影響(生理学的変容)も併せ継続してデータ取得し再解析する必要がある。 上記の解析結果から、心の理論課題に関連する社会的認知機能の背景には前頭葉、主に眼窩前頭皮質や帯状回、後頭葉皮質が関わっていることが示唆された。また疾患によっては運動機能障害よりも社会的認知機能の障害の程度が社会参加の阻害因子になることも示唆された。
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