研究課題/領域番号 |
18K17887
|
研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
山口 郁博 東京大学, 大学院教育学研究科(教育学部), 特任助教 (30735163)
|
研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2021-03-31
|
キーワード | 皮質 / 視床 / てんかん / 睡眠 / 超概日リズム |
研究実績の概要 |
(1)皮質-視床モデルを用いたてんかん発作の解析 てんかん発作については数理モデルの側面からのさまざまなアプローチがあるが、本研究におけるアプローチでは、およそ一万程度のニューロンを「場」として扱い、脳の興奮を波(脳波)の伝搬として解析することに特徴がある。理論構築は昨年度に済ませたが、論文の出版およびその内容報告、内容に対する議論を今期行った。その際、投稿論文が日本物理学会論文誌でEditors' Choiceを受賞し、日本物理学会誌の8月号で紹介されたことが大いに役立った。関係分野の研究者との議論においては、脳波とは異なる生体信号(たとえば心拍データ)を用いたてんかん発作前兆解析などを行っているグループや、電気刺激を入力することで発作を抑える手法開発を目指しているグループ、てんかん発作と類似した神経疾患と考えられるパーキンソン病の数理研究者との交流を進めた。 (2)睡眠中の超概日リズムの動態解析 睡眠の量や質がさまざまな疾患と関連していることは、一般に広く知られているものの、医学的・生命科学的に未知の部分が多い。本テーマによるアプローチ、すなわち皮質-視床モデルを用いた脳波解析は、そのギャップを埋める新しい知見を得て来た。今期は、そのモデルをいったん離れ、睡眠ステージの遷移に関する新しい数理モデルについて、先期から組み立てて来た内容をまとめ、国際会議において発表した。この解析法は、睡眠ステージという質的なデータの時系列から、睡眠のリズム、すなわち超概日リズムを抽出するところが斬新なものである。この方法による解析結果は皮質-視床モデルを用いた脳波解析と良く一致しているが、その一致の具体的な意味を解釈する部分の統合的理論はまだ完成していない。今期は、数理関係、生理学関係の文献を幅広く調べ、理論構築を進めた。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
皮質-視床モデルをてんかん発作の理解に向けて展開することに関して基礎段階が終了し、日本物理学会からその物理学的側面を評価された。睡眠中の超概日リズムについては、本テーマで構築した皮質-視床ループ結合の推定技術が睡眠中の動態変化をうまく捉えることが確認された。
|
今後の研究の推進方策 |
てんかん発作の解析については、皮質-視床モデルの精度を高めることや、てんかん発作と類似した疾患、例えばパーキンソン病などへの神経理論の展開が課題となる。睡眠の超概日リズムの動態解析については、理論的な側面の強化とともに、実データ解析を進展させ、睡眠の質、特に疾患を持つひとの睡眠動態を定量的に評価する手法として完成度を高めることと、実施項目として後回しにしてきた脳波以外の生体データ(筋電図データ、心電図データ、酸素飽和度データなど)や主観的・質的データ(「良く眠れた」などのアンケート)との相関分析などが来期以降の課題となる。
|