研究課題/領域番号 |
18K17888
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
小林 裕央 東京大学, 大学院総合文化研究科, 特任研究員 (50782778)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | 野球 / 投球動作 / 筋活動 / ばらつき / 発育発達 |
研究実績の概要 |
本研究課題は投球動作における力感やリズムといった運動感覚を可聴化し、それを聴覚フィードバックさせる学習支援プログラムの開発が最終目標となる。 一年目に実施した投球中の筋活動と投球位置のバラつきに関する研究について、二年目は対象者にプロ野球投手を含め全身16ヶ所の筋活動を計測し、投球位置のバラつきとの関連について検証した。筋活動はボールリリース前190 ms区間の全波整流波形を用いて変動係数(CV)を算出し、各筋の投球間のバラつきと投球位置のバラつき(等確率楕円の長軸長、短軸長)との相関関係を調べた。その結果、非投球側の外腹斜筋と短軸長との間に正の相関が見られ、一方、投球側の上腕三頭筋、尺側手根屈筋と長軸長との間に負の相関が見られた。これらの結果は投球コントロールの精度が高い投手は、体幹部の回旋量やリリースに対する回旋のタイミングに高い再現性があり、投球腕に関してはボールリリースまでに蓄積された時空間的な誤差の修正を行う制御方略があることが明らかとなった。この成果は現在、国際誌への投稿準備を進めている。また、この結果を踏まえ、小学生~大学生を対象に投球コントロールのバラつきの発育発達の影響を調べた結果、投球のバラつきの程度を示す等確率楕円の長軸長については全群間で有意差はなく、反対に短軸長については高校生、大学生の両群に比べ、小学生、中学生の両群が有意に長く、また、小学生群については投球腕の軌道のバラつきが大きく、それに対して高校生、大学生両群は投球腕の軌道に高い再現性が見られた。長軸長はボールリリースのタイミングのバラつきとの関連があると考えられているが、この点については発育段階における差はなかった。一方、投球フォームのバラつきと関連があるとされる短軸長に発育に伴う投球コントロールの正確性の差が見られた。この成果については既に国際誌へ投稿済みである。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
これまでに、投球中の筋活動計測を主に行い、投球コントロールの正確性に対する動作方略や発育発達に伴う投球コントロールの特徴が明らかになってきた。これらは、初心者や子供たちが投球動作を学習する上で、動作の再現性を高めるために可聴化してフィードバックさせるポイントを見極めるための重要な成果となった。今後は、これらの知見を基に可聴化システムの構築を目指していくが、予算の都合もあり現状で可聴化させるシステムの構築に至っていない。当初は床反力計を導入し、投球中の軸足側(右投手の場合、右足)の地面反力をオンラインフィードバックさせ、投球動作を学習させることを予定していたが、これが導入できない場合には非投球側の外腹斜筋や軸足側の下腿三頭筋群の筋活動をフィードバックさせるなどして学習を促進させる方法を検討していかなければならない。最終年度の三年目はこのシステムの構築を目標に研究を行い、得られた成果を国際誌へ投稿できるように進めていきたい。
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今後の研究の推進方策 |
まずは、床反力計を用いた可聴化フィードバックシステムの構築が実現可能かどうかを検討し、それが可能となった場合、早急に構築および検証を進め、投球熟練者、未熟練者、子供を対象に投球中の軸足地面反力の特徴について比較検証を行っていく。そして、特徴の差が学習を促進させるポイントとなるため、それをフィードバックさせることで学習効果を高められるかどうかについて検討する。一方、もし床反力計を導入できない場合には筋電図を用いたフィードバックの方法を検討し、同様にスキルレベルの違いによる特徴を検証し、フィードバックシステムの構築を目指していく。
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次年度使用額が生じた理由 |
当該年度では、これまでに実施した研究成果を国際誌への投稿を進め、当初計画していた床反力計を導入した学習支援システムの構築に至らなかった。また、予算的にも購入ができない状況だったため、次年度へ繰り越し、三年目にシステムの構築を目指す。
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