本研究は投動作中の力感やリズムといった運動感覚を可聴化し、聴覚フィードバックする投動作の学習支援プログラムの開発を目標とした。三年目はこれまでの研究成果を基に力感による制御方略の違いや熟練投手の微調整能力について検証を行った。熟練投手を対象に異なる力感(全力の50 %、80 %、100 %)で投球を行った際の全身18ヶ所の筋活動を比較した結果、50 %では強度の高い80 %や100 %で見られた共通の筋活動パターンとは異なる特徴を有し、特にその特徴はボールリリース前300 msで確認された。一方、80 %と100 %では共通の筋活動パターンがあるというよりは個人間の差の方が大きく、個々によって投球強度の高め方に違いがあることが示唆された。 また、熟練投手が投球の正確性を高めるために行うボールリリースの微調整について調べた結果、制球力の高い元プロ野球投手は他の投手と比べてボールリリース位置のバラつきが大きく、投球時に発生した誤差の修正としてボールリリースの位置やタイミングを変えることで狙ったところに正確に投げるための制御方略を行っていることが示唆された。この結果は、これまでに我々が明らかにしてきた制球力の高い投手はそうでない投手と比して投球腕の筋活動のバラつきが大きいという成果と関連するものである。 以上のことから、熟練投手においては力感によって筋活動の協調パターンが変化すること、そして投球の正確性を高めるためには投球時に生じた誤差を修正するために筋活動を微調整し、その結果ボールリリースの位置を変動させることで狙った位置に投げられるような制御を行っていることが明らかとなった。残念ながらこれらの成果を用いて聴覚フィードバックによる投動作の学習システムの開発には至らなかったが、今後継続してこの開発に向けて検証を重ねていく。
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