研究課題/領域番号 |
18K17889
|
研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
井尻 哲也 東京大学, 大学院総合文化研究科, 助教 (10784431)
|
研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2021-03-31
|
キーワード | 視覚認知 / 視覚運動制御 / VR / バーチャルリアリティ / 野球 |
研究実績の概要 |
本研究は,野球を代表とする球技スポーツにおける優れた視覚運動制御機能の特性とその神経基盤を明らかにすることを目的としている.
今年度は野球選手の視覚認知機能を評価すること及び,視覚認知機能を訓練するために,大学野球競技者を対象にヴァーチャルリアリティシステム(VR)を活用した視覚実験を行った.実験参加者は,ヘッドマウントディスプレイ上に投影された打者目線からの実際の投球映像と,その映像に合成された投球軌道を観察し,投球の球種を判別する課題を約1か月間において継続して行った.またその実験期間の開始前と全期間終了後に,投球マシンによってランダムに投じられる直球と変化球を打つ実験を実施し,異なる球種に対する打撃のパフォーマンスを計測した.その結果,球種判定課題において反応潜時,正答率ともに実験開始時に比して終了時に有意に向上した.実打条件におけるパフォーマンスは解析中であり,今後VR視覚実験の成績との関係性を明らかにする予定である. また,本年度後半にウイルス感染症の流行に伴い全国の競技チームにおいて普段の活動が著しく制限されたことを受けて,競技チームに所属する競技者のコンディション等をオンラインでチーム単位で記録,管理するシステムを構築し,大学野球部や協力関係にある自治体の高校野球部などに導入した.本システムはスマートフォンなどのモバイル機器を用いて簡単に記録できるほか,記録した日々のコンディション情報などを,コーチや選手個人がいつでも振り返ることができるなどの利点がある.
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
昨年度は実験室におけるアスリートの腕到達運動の修正応答を評価する実験を行った.今年度は,VRを活用することでスポーツ選手の視覚認知機能を評価および訓練できる可能性が示されたが,VRを使わない従来の視覚認知課題等との詳細な効果の比較検証や実際のスポーツパフォーマンスとの関係性を詳細に検討する必要がある.またVRや実際のスポーツパフォーマンスと昨年度までに行った実験室における腕到達運動の短潜時の運動修正応答の特性との関係性も今後検討する予定である.また,昨年度の研究において,被験者の脳構造もMRIによって撮像したが,このデータに関しては現在分析中であるため,その進捗を早める必要がある.
|
今後の研究の推進方策 |
本研究では,アスリートの視覚認知機能について,統制された実験室課題,実際のスポーツ環境でのパフォーマンス,その中間に位置する仮想現実空間(VR)での視覚課題の3段階において詳細な検討を進めている.今年度は,特にVRを活用した視覚認知機能の評価と訓練(学習)についての実験を行った.今後これら3要素の関係性について検討する予定である.
また、オンラインでのコンディション管理システムに関しては、TrackmanやRapsodoといった最新の機器を用いた計測結果を統合することも可能である。スポーツパフォーマンスと,精神面を含めた日々のコンディションを継続的に計測することで,アスリートのコンディションとパフォーマンスの関係性を学術的に扱える環境を構築していく.また,実験当事者が計測の場にいなくても、指導者等で計測機器を使用できる物がその場にいれば各種計測を行えるため、全国の遠隔地においてもデータを計測し、クラウド上で共有したデータを分析することができる。このような環境はスポーツ現場への貢献・フィードバックと研究目的での計測を両立することができ,これまでのスポーツ科学にない新しい研究環境を提案することにもつながることが期待できる.
|
次年度使用額が生じた理由 |
研究進捗状況を鑑み,当初予定したMRI計測を今年度に行わなかったため実験経費が減少した.
|