研究課題/領域番号 |
18K17893
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研究機関 | 東京農工大学 |
研究代表者 |
林 拓志 東京農工大学, 工学(系)研究科(研究院), 特別研究員 (80815358)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | 感覚予測誤差 / 報酬予測誤差 / 運動学習 / 行動選択 |
研究実績の概要 |
我々は様々な場面で、複数ある選択肢から行動を決定し、運動を実行する。もし、期待した結果が得られなかった場合、脳は2つの予測誤差を計算する。1つ目は予測した報酬との報酬予測誤差であり、2つ目は予測した感覚情報との感覚予測誤差である。従来の研究では、報酬予測誤差は適切な行動選択のために、感覚予測誤差は適切な運動実行のために用いられると考えられてきた。しかし、近年の研究動向では、報酬予測誤差が適切な運動実行のためにも用いられるという新たな見方が主流となっている。一方で、感覚予測誤差が行動選択に与える影響は未だ明らかではない。本研究では、行動実験と数理モデリングを組み合わせることで、脳が感覚予測誤差をどのように捉えているか(報酬情報か罰情報か)明らかにし、その背景メカニズムを同定することを目的とする。本研究は、脳の報酬系と運動系の関係性について新たな枠組みを提案できる可能性を有する。 視覚運動課題を用いたターゲット探索課題中に意識できない大きさの感覚予測誤差を付与させることにより、感覚予測誤差と行動選択との関連性について明らかにする。この感覚予測誤差は行動価値には全く無関係に設定する。したがって、感覚予測誤差の有無や大小によって行動を変化させる必然性はないが、もし感覚予測誤差が行動選択を変化させるならば、感覚予測誤差が報酬として用いられていることを示唆する。これまで探索課題中に、微小な感覚予測誤差を与え、行動選択が変化するか調べてきたが、微小にはその効果が見られるものの、その量は非常に小さく有意な結果は得られていない。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
私が行ってきた感覚予測誤差は被験者に気づかれないように与えることで、無意識的な感覚予測誤差を生じさせ、行動選択が変わるかどうか調べてきた。実験では、ワークスペースの領域によって回転変換の大きさを変えることで、領域ごとに異なる大きさの感覚予測誤差が生じさせる。行動選択の指標として、回転変換の大きい領域と小さい領域にどれだけ長く探索したかを示す滞在確率を計算する。これらの実験設定から、感覚予測誤差の大きい領域の滞在確率が増加すれば、感覚予測誤差は報酬情報となっていると考えられる。一方、感覚予測誤差の小さい領域の滞在確率が増加すれば、感覚予測誤差は罰情報となっていると考えられる。 一連の行動実験で、トレンドは見られるものの、大きな行動変化は見られておらず、行動の変化を捉えるまでに至っていない。海外渡航先で、議論を重ねると、行動選択の変化が「意識的に感じられる刺激」に対してのみ生じる可能性が明らかになってきた。したがって、本研究のような無意識的な感覚予測誤差の効果は思ったより強くない可能性が明らかになってきた。
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今後の研究の推進方策 |
今後は、行動実験の再考が求められる。特に、上記の、行動選択の変化が「意識的に感じられる刺激」に対してのみ生じる、という事実は良い点と悪い点を含んでいると考えている。 良い点として、現在までの行動実験から、無意識的に与えられた感覚予測誤差が行動選択を変える可能性について、有意な差は得られなかったものの、トレンドが見られている。つまり、これは、行動選択の変化が「無意識的に感じられる刺激」に対しても生じる可能性を示唆しており、新たな現象である可能性がある。悪い点として、やはり、無意識的な刺激は、行動選択を変化させる効果が薄いということが挙げられる。この変化をより強調させるような感覚予測誤差の与え方や、行動選択実験の方法を再考しなければならない。
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次年度使用額が生じた理由 |
当該年度に必要な金額に到達せず、来年度に繰越す必要が生じました。主な理由として、期待される研究結果が異なったことと、海外渡航先による議論の結果、研究計画の変更を余儀なくされたからである。 来年度は、この研究をさらに深く議論し、より精巧な実験系を構築・実施するために、海外渡航先であるハーバード大学で滞在する予定である。したがって、来年度は主にハーバード大学に滞在するための滞在費と、実験関連経費に充当する予定である。そうすることで、本研究をより高い制度で実施可能であると考えている。
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