我々は様々な場面で、複数ある選択肢から行動を決定し、運動を実行する。もし、期待した結果が得られなかった場合、脳は2つの予測誤差を計算する。1つ目は 予測した報酬との報酬予測誤差であり、2つ目は予測した感覚情報との感覚予測誤差である。従来の研究では、報酬予測誤差は適切な行動選択のために、感覚予 測誤差は適切な運動実行のために用いられると考えられてきた。しかし、近年の研究動向では、報酬予測誤差が適切な運動実行のためにも用いられるという新た な見方が主流となっている。一方で、感覚予測誤差が行動選択に与える影響は未だ明らかではない。本研究では、行動実験と数理モデリングを組み合わせること で、脳が感覚予測誤差をどのように捉えているか(報酬情報か罰情報か)明らかにし、その背景メカニズムを同定することを目的とする。本研究は、脳の報酬系と 運動系の関係性について新たな枠組みを提案できる可能性を有する。 視覚運動課題を用いたターゲット探索課題中に意識できない大きさの感覚予測誤差を付与させることにより、感覚予測誤差と行動選択との関連性について明らか にする。この感覚予測誤差は行動価値には全く無関係に設定する。したがって、感覚予測誤差の有無や大小によって行動を変化させる必然性はないが、もし感覚 予測誤差が行動選択を変化させるならば、感覚予測誤差が報酬として用いられていることを示唆する。これまで探索課題中に、微小な感覚予測誤差を与え、行動 選択が変化するか調べてきたが、微小にはその効果が見られるものの、その量は非常に小さく有意な結果は得られていない。
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