本研究はヒトの主観的な痛み感覚に及ぼす運動出力系調節の影響および自律神経系調節の影響について2つの実験から明らかにすることを目的とした。本研究では主観的な痛み感覚が骨格筋収縮課題や暗算課題など運動神経系や自律神経系の調整時において減衰するものと仮説立てた。平成31年(令和元年)度は健康な成人男性8名を対象として、暗算課題時における主観的末梢感覚および体性感覚誘発電位(SEP)の変化について検討した。主観的末梢感覚は、セメスワインスタインモノフィラメント(酒井医療)を用いて被験者の右側手背部を閾値強度で刺激し、被験者にフィラメント刺激による感覚が生じたかを口頭で回答させることで評価した。右手の正中神経を手根部で経皮的に電気刺激を行い、その際のSEPを記録した。電気刺激幅は0.2ms、刺激頻度は2Hzとした。SEPは刺激側の手の感覚領域であるC3電極(国際10-20法)の位置から2cm後方のC3'電極から導出し、200回分のデータを加算平均した。SEPの分析項目はN20およびP25の振幅(peak-to-peak)値とした。平成31年(令和元年)度の主な知見は、暗算課題によって①主観的末梢感覚が鈍化すること、②SEP(N20、P25)は変化がみられないことがであった。平成31年(令和元年)度の知見から、暗算課題によって循環器系指標および主観的末梢感覚の変化が変化する一方、一次体性感覚野へ投射される電気生理学的入力は暗算課題の有無にかかわらず一定であることが示された。
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