研究課題/領域番号 |
18K17914
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研究機関 | 国立障害者リハビリテーションセンター(研究所) |
研究代表者 |
梅沢 侑実 国立障害者リハビリテーションセンター(研究所), 研究所 脳機能系障害研究部, 流動研究員 (90804097)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | 自閉スペクトラム症 / 発達性協調運動障害 / 一次運動野 / 補足運動野 / gamma-aminobutyric acid / MR spectroscopy |
研究実績の概要 |
自閉症者では、多岐に渡る運動に困難をもつ。本研究では、一次運動野(M1)に含まれる抑制性の神経伝達物質(GABA)が減少することで、筋の細やかな制御に必要な側抑制の機能を阻害し、巧緻運動障害を引き起こす可能性を検証する。MR spectroscopyと臨床用アセスメント(BOT-2)を用い脳内GABA濃度と全般的な運動能力との関係を調べる実験について、令和元年度は、自閉症者、定型発達者合わせて23名のデータを追加した。その結果、仮説と反しM1のGABA濃度と巧緻運動スキルとの関連はみられなかった。一方、全身の大きな筋力を要する運動スキルの低下がM1のGABA濃度の増加と関連した。さらに、補足運動野(SMA)のGABA濃度が低下するほど、全身の協調運動スキルが低下した。これらの成果はJournal of Autism and Developmental Disorder誌に掲載された。さらに、SMAのGABA減少が協調運動スキルの低下に結びつくメカニズムを調べるため、BOT-2に含まれる複数の運動タスクの内、自閉症者で顕著にパフォーマンスが悪化した手足のタッピングタスクに着目した。このタスクでは、両手足でリズミカルにタッピングする必要がある。自閉症者では同側手足(e.g., 右手、右足)のタッピングのタイミングを同期させる条件ではリズミカルなタッピングを継続できるものの、同側手足を同期させない条件(e.g., 右手、左足のタッピングタイミングを同期)では、定型発達者と比較してパフォーマンスが悪化した。さらに、SMAのGABA濃度が低いほど、同側手足のタッピングのタイミングを分離させることが困難だった(第13回Motor Control研究会で発表)。以上の結果は、自閉症者におけるSMAのGABA減少が、同側手足の動作を分離し適切に協調させることを阻害している可能性を示唆する。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
本年度は、昨年度からデータ数を増加し、脳の運動領域のGABA濃度の変容が、臨床アセスメントで評価した運動スキルの低下と関連することを明らかにした。さらに詳細なデータ分析により、補足運動野(SMA)のGABA濃度の減少が、同側の手足の動作方向を分離させることを阻害している可能性が示唆された。また、脳内GABA濃度とは関連がみられなかった巧緻運動のスキルについて、到達運動時の視覚情報の利用の仕方に着目した実験を実施した。実験の結果、定型発達者では対象の位置を把握する際に、外部環境にある「モノ」を基準にするのに対して、自閉症者では自分の身体を基準にしがちであることがわかった(第42回日本神経科学会で発表)。この成果は論文にまとめ、国際誌に投稿中である。初年度に計画していた研究を基に、さらに発展的な成果を得ることができたという点で、当初の計画以上の進展があったと考える。
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今後の研究の推進方策 |
次年度は、自閉症者の協調運動スキル低下の背景に、SMAの抑制機能低下による手足の動作分離の困難があるという、今までの研究成果によって得られた新たな仮説を検証する。健常者を対象とした研究では、手関節、足関節を周期的に伸展・屈曲する運動を行う際に、矢状面において手足の運動方向を逆にしていても、運動を続けていると方向が揃ってしまう現象が報告されている((Baldissera et al. 1982)。さらに、SMAの活動が、運動方向の同期を抑制する可能性が示されている(Nakagawa et al., 2016)。これらのことから、ASD者では、SMAのGABA減少によりこの領域の抑制機能が低下し、手足の運動方向の同期を抑制できていない可能性がある。このことを確認するため、自閉症者・定型発達者を対象に、モーションキャプチャシステムを用いて、両手、両足を用い周期的な伸展・屈曲運動をしてもらい、自閉症者で手足の運動方向の同期が生じやすいかを確認する。また、SMAのGABA濃度との関連も調べる。
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次年度使用額が生じた理由 |
実験参加者への謝礼金について、一部所属機関の予算を利用できたため、残額が発生した。 残額分は、次年度の実験参加者への謝礼金費として利用する。
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