音楽の公演やスポーツの試合など,他者から観察・評価される社会的場面においてパフォーマンス不安(いわゆる緊張・あがり)が誘発されると,運動パフォーマンスが低下することがあり,演奏者やスポーツ選手を初めとする多くのパフォーマーを悩ませている。これを踏まえ,本研究では,パフォーマーを取り巻く他者の影響に着目しつつ,パフォーマンス不安形成の背後にある心理学的メカニズムの解明を目指した。このため,音楽演奏者の中でもパフォーマンス不安に悩む者の割合が高いと言われているピアノ奏者を対象に,質問紙調査及びインタビュー調査を実施し,これらの調査結果を詳細に分析した。質問紙調査では,音楽を専攻する学生の多くが,他者(教員)が自己の演奏に対して評価・採点を行う実技試験場面におけるパフォーマンス不安反応を報告した。先行研究に基づき,報告されたパフォーマンス不安反応を心理面・生理面・行動面に分類したところ,3種類の反応の報告数は,本番前~本番後にかけて,それぞれ異なる経時的変化を示した。中でも,心理面・生理面の反応は演奏前,行動面の反応は演奏中に報告数が最大となった点が特徴的であった。さらに,半構造化面接法を用いたインタビュー調査により,他者からの評価や親・指導者からの発言が,パフォーマンス不安を高める一因となることが示唆された。以上の結果より,パフォーマンス不安を軽減させる上で,パフォーマーを取り巻く他者との関係性やその捉え方が重要である可能性が示唆された。年度中,本研究成果に関して,日本音楽教育学会第51回大会にて発表を行った。
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