研究課題/領域番号 |
18K17916
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研究機関 | 国立研究開発法人情報通信研究機構 |
研究代表者 |
横井 惇 国立研究開発法人情報通信研究機構, 脳情報通信融合研究センター脳情報通信融合研究室, 研究員 (70795393)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | 運動学習 / 瞳孔径 / 到達運動 |
研究実績の概要 |
2019年度は、以下の研究課題を行なった。 (1)よりばらつきの少ない外乱を用いて、前年度に実施した実験(腕到達運動を用いた試行毎の運動修正量と瞳孔応答との関係の検討)の追試を行った。この外乱に対する試行毎の運動修正パターンは前回同様であることを確認した。さらに両実験のデータを各被験者の実験中を通しての平均瞳孔径で層別化して再解析したところ、運動修正量と瞳孔応答の関係は、平均瞳孔径の小さい被験者では正の関連を示し、平均瞳孔系の大きい被験者では負の関連を示す傾向にあるという、逆U字型の関係の存在が示唆された。 (2)研究代表者が過去に行った運動学習と瞳孔径に関する実験(外乱がランダムに逆転する環境での運動学習)の再解析を行った。その結果、瞳孔径は外乱の導入や逆転に応じて一過性の応答を示すが、この応答の強度は逆転を繰り返す毎に減弱する(最初の外乱への反応が最も強い)という特徴的応答パターンが明らかになった。また、この特徴は複数のデータセット間で共通することを確認した。瞳孔径に影響を与えるノルアドレナリン系の活動は環境の不確実性を反映するという説(例えばDayan and Yu, 2006)を考慮すると、この応答パターンは脳における不確実性の評価様式の特徴を反映したものであると考えられる。 (3)環境の不確実性を考慮に入れた学習モデルで上記(2)の特徴を示すモデルの有無を調査した。近年ではMathys (2011)らによるHierarchical Gaussian Filter (HGF)やPiray & Daw (2020)によるVolatile Kalman Filter (VKF)などの逐次的学習モデルが提案されているが、これらのモデルで(2)の特徴を再現するのは困難であるという予備的結果を得ている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
2019年度は、到達運動用マニピュランダムおよび実験室(現所属機関での共同利用設備)の利用状況が予想以上に混雑していたため、十分な量の実験を実施することが難しい状況にあった。そのため、今年度は数理モデルの検討を前倒しして開始した他、過去のデータの再解析を行いモデル構築のための知見を得るなどして対応した。幸い、下半期より到達運動用マニピュランダムおよび実験室の増設が行われたため、今後は予定した実験の実施が可能であると見込まれる。
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今後の研究の推進方策 |
現所属機関で実験設備の増設が行われたものの、新型コロナウイルスの感染拡大の影響をうけ、被験者の協力を必要とする行動実験の再開の見通しは現時点で不透明である。このことを鑑み、今後は実験再開まで数理モデルによる検討を計画の中心とする。 (A)具体的には、「概要」の(3)をさらに発展させ学習環境の不確実性を考慮に入れた数理モデルで、これまでに収集した運動学習実験中の学習および瞳孔径データの特徴を説明可能なものを構築することを目指す。(2)で得られた特徴(外乱の導入・逆転に対する瞳孔反応が徐々に減弱する)は、瞳孔径(およびノルアドレナリン系)が局所的な外乱の有無・反転だけでなく、より長い時間スケールの外乱情報をも同時に反映している可能性を示唆している。そこで、複数の時間スケールを持つ学習モデル(例えばSmith et al., 2006)を導入・発展させ(2)で得られた実験的特徴の再現を試みる。 (B)並行して(A)で得られた数理モデル(群)から導かれる実験仮説の検証実験のデザインを行い、実験再開に備える。
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次年度使用額が生じた理由 |
2019年度は腕到達運動用マニピュランダムの共同利用状況が予想以上に混雑していたため、当初予定した実験量よりも小規模な実験実施に止まった。このため、実験補助員の雇用および被験者謝金で予定していた人件費・謝金を中心に繰越金が生じた。これらの繰越金は同様に人件費・謝金に支出する予定であるが、新型コロナウイルスの流行収束状況に応じて被験者実験の再開時期が変動することが見込まれるため、補助事業期間の延長も視野に入れて柔軟に対応する。
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