研究課題/領域番号 |
18K17918
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研究機関 | 筑波大学 |
研究代表者 |
呉 世昶 筑波大学, 医学医療系, 研究員 (10789639)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | 脂肪肝 / 運動療法 / 食事療法 / 全身振動トレーニング / アディポカイン / ヘパトカイン / マイオカイン / 非アルコール性脂肪性肝疾患 |
研究実績の概要 |
非アルコール性脂肪性肝疾患(NAFLD)の急激な増加には,肥満人口の増加が密接に関連している.NAFLDの有効な治療法としては,カロリー摂取を低く抑え,体重・体脂肪の減少を目指した食事制限が主流である.また,多数の先行研究より運動不足はNAFLDの発症と進展の重要な原因として知られているが,医療現場においての運動療法は実際の肥満改善効果が小さいことにより,NAFLDの治療効果としては懐疑的である.そこで,私はNAFLDに対する運動療法の治療効果を確かめるための研究を実施した.以下の結果より,運動療法は,NAFLD改善効果を促進することが判明した.本研究実績は,現在までの研究の一環として,運動療法が発揮するNAFLDの肝病態改善効果について検討したものである.
①全身振動トレーニング(WBV)は,振動により重力加速度の増幅をさせることで骨格筋に物理的刺激効果を与える新しいレジスタンストレーニング法として注目されている.日常的に運動実施が困難なNAFLD肥満患者にWBVを行った結果,体組成と身体機能を改善し,肝脂肪量減少と肝機能障害軽減の肝病態改善効果が表れた.つまり,WBVは医療現場におけるNAFLDのマネージメントに有用であると考えられた. ②NAFLDの病態形成には,肝臓,骨格筋や内臓脂肪組織から産生・分泌される生理活性物質がインスリン抵抗性の誘導に主役を演じていることが知られている.そのことから,運動療法はこれら生理活性物質の変動を介してNAFLDの病態を改善するかを検討した.その結果,運動療法は体重・体脂肪量の減少は軽微であるが,これら生理活性物質の変動を介在して,NAFLDの肝病態を改善することが明らかになった.
以上のことから,実際の食事制限に苦労している大多数のNAFLD肥満患者に,規則的に運動を実施することを勧奨する.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
運動療法戦略の展開において,従来の患者との対面による病院のシステムでは多数の患者を受容することが難しく,待機期間が長くなっていることから,新たな戦略とそれに付随した医療体制の構築が必要である.そのことで,私は本研究でウェルネス分野のICT(情報通信)技術を利用し,患者が自分自身の生活環境や心身の状態を正しく把握し,目標の設定,計画,実行に向けた自己管理能力の獲得を目指すことを目的に研究を続けている.そのため,本研究ではPolar社のウェアラブルデバイス(POLAR A370,POLAR M600)を購入し,また,同社の運動管理プログラムであるPolar flowのアプリを利用し研究を行った.先に8人を対象に予備実験を実施した結果,問題点として,大多数の高齢患者がウェアラブルデバイスの使用やアプリ投稿サイトの利用を難しく感じていた.また,ウェアラブルデバイスから得られた運動情報をもとにした運動カウンセリングをウェブ上で実施した結果においても,高齢患者の大多数が使用方法に慣れるまで長い時間がかかった.また,使用方法を覚えた方においてもその方法をすぐ忘れるなどのトラブルが続いた.そして,若年齢の患者においては,研究期間中にウェアラブルデバイス着用を忘れる,バッテリー充電を忘れるなど,着用の習慣化が問題になった.
この問題点を解決するため,研究内容を少し変更する必要があり,現在のところ研究の進行が計画よりやや遅れている.
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今後の研究の推進方策 |
本実験を実施する前に,予備実験の問題点であった高齢患者におけるウェアラブルデバイスの操作方法や測定設定をもっと単純化する必要がある.ウェアラブルデバイスは,本端末とアプリが持っている様々な機能の中から,高齢患者にも簡単に操作ができる機能を選択し,本研究デザインに適応させる必要がある.また,高齢患者がもっと理解しやすくウェアラブルデバイスを使用できるよう,既存マニュアルを変更するなどの対策案を考案している.ウェアラブルデバイス着用の習慣化に対する解決のため,遠隔モニタリングを実施する前に参加者への事前教育や実施中に着用確認などをする必要がある.
予備実験を通じて現れた問題点を今年の7月までに解決し,今年は10人程度のデータの取得を目標に本実験(遠隔モニタリング)を実施する予定である.残りの研究期間で,やや遅れている本研究の完成度を上げるため,現在のところ,2年間になっている自由管理期間を短縮し,研究の完成度を高める予定である.また,本実験実施後に起きる様々な問題点を減らすため,一週間程度の着用適応期間(オリエンテーション)などを設定し,この期間中スタッフが積極的に対応し,患者がウェアラブルデバイス使用に慣れるよう心がける予定である.
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