Nicotinamide Adenine Dinucleotide (NAD)は生体内の酸化還元反応に関わる補酵素であり、エネルギー代謝を中心とした多くの反応に関わっている。また、加齢に伴う体内NAD量の減少は、老化の進行に関わっていると考えられている。一方でNADの前駆体を用いたNAD補充療法が肥満や糖尿病に対する予防・治療効果を持つと期待されており、ヒトを対象とした臨床試験が進められている。しかしながら、NAD代謝の全体像は未だに明らかにされていない。本研究課題ではNAD代謝の新規経路として、NAD代謝中間体の脱アミド化機構を同定し、その役割を解析することを目的としている。前年度までに新規反応経路とその反応を担う酵素のノックアウトマウスの解析を行った。そこで、今年度は脱アミド型のNAD前駆体の代謝について詳細に検討することを目的とした。 体内における脱アミド型のNAD前駆体の利用経路を解析するため、代表的な前駆体であるニコチン酸を用いて解析を行った。ニコチン酸を野生型マウスに投与したところ、肝臓におけるNAD量は有意に増加した。興味深いことに、ニコチン酸からのNAD合成の最終反応を担う酵素のノックアウトマウスにおいても同様に肝臓中のNAD量はニコチン酸投与によって有意に増加した。この機構を明らかにするため、安定同位体を用いたトレース実験を行ったところ、これまでに同定した脱アミド化機構の逆反応が関与していることが示唆された。
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