Paneth細胞が分泌するαディフェンシンは腸内細菌の排除と共生に関わり、腸内細菌叢の制御を行うことによって腸内環境の恒常性維持に貢献している。出生以降、乳児の腸内細菌は劇的に変化し、3歳頃には成人型の腸内細菌叢になることが知られている。特に乳児期の母乳または乳児用調整乳という栄養方法の違いが腸内細菌叢の形成に大きく影響することが報告されている。さらに、離乳食導入後は栄養源が母乳や乳児用調整乳から多様な食事成分に代わることで、腸内細菌叢の多様性が高まり成熟していく。 本研究は、Paneth細胞の正常な発達とαディフェンシンの分泌が腸内細菌叢の形成を促し、乳児期の腸内環境の制御にも寄与するという仮説のもと、腸内細菌の変動の大きい乳汁栄養~離乳以降のαディフェンシン分泌量と腸内細菌の多様性の関連を明らかにすることを目的とする。 母親の同意を得られた出生児10名を対象とし、生後7日、生後1ヵ月、生後4ヵ月、生後5~6ヵ月(離乳食開始1ヵ月後)、生後7~8ヵ月(離乳食2回食導入1ヵ月後)、生後9~11ヵ月(離乳食3回食導入1ヵ月後)の計6回、糞便を採取した。さらに腸内細菌叢に影響を及ぼす要因として出産状況や離乳食の摂取状況について情報の聞き取りを行った。 対象児を母乳栄養群と乳児用調整乳群に分け、便中HD5濃度および腸内細菌の多様性について比較を行った。母乳栄養群では乳児用調整乳群に比べ、生後1ヶ月、生後9~11ヶ月でHD5濃度が高い傾向が見られた。腸内細菌の多様性は生後4ヶ月、生後5~6ヶ月において乳児用調整乳群で高かったが、生後9~11ヶ月では母乳栄養群と乳児用調整乳群で同程度となった。 本研究により乳児期の栄養源の違いによりαディフェンシン分泌量が異なり、離乳食導入後の腸内細菌叢の成熟に影響を及ぼす可能性を示した。
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