骨格筋萎縮の進行を促進させる新たなリスクファクターとして『肥満』が注目されているが、そのメカニズムは不明である。本研究では当初、廃用性筋萎縮が生じる長期間のギプス固定における肥満の影響について検討する予定であった。しかしこの研究過程において、マウス後肢を最大底屈位にて短時間(6時間)のギプス固定を与えると、筋萎縮が生じないにもかかわらず、骨格筋の細胞内情報伝達が変化することを見出した。そこで今年度は、肥満における短時間のギプス固定が骨格筋の細胞内情報伝達ならびに遺伝子発現に及ぼす影響を検討した。マウスは通常食群ならびに高脂肪食群に分類し、高脂肪食群には高脂肪食を16週間与え、肥満を誘発させた。16週間後、全てのマウスの右後肢を最大底屈位にてギプス固定を施し、左後肢は無処置の対照群とした。ギプス固定6時間後に下腿三頭筋を摘出し、得られたサンプルをWestern blottingならびにReal-time RT-PCRを用いて評価した。タンパク質合成経路であるp70 ribosomal protein S6 kinaseと4E-binding protein 1のリン酸化状態を評価したところ、肥満マウスのギプス固定足でのみ有意な低下が認められた。さらに炎症性サイトカインであるInterleukine-6(IL-6)の遺伝子発現量を評価したところ、IL-6は肥満マウスのギプス固定足でのみ有意な増加が認められた。また、ストレス応答MAPK経路のc-Jun N-terminal kinaseのリン酸化状態においてはギプス固定処置(Treatment)に主効果が認められたが、肥満の影響はなかった。したがって、肥満が筋萎縮の進行を促進させるメカニズムの一つとして、筋萎縮後初期段階におけるIL-6の増加を介したタンパク合成経路の抑制によるものである可能性が示唆された。
|