骨格筋萎縮の進行を促進させる新たなリスクファクターとして『肥満』が注目されているが、そのメカニズムは不明である。この研究過程において、マウス後肢を最大底屈位にて短時間(6時間)のギプス固定を与えると、筋萎縮が生じないにもかかわらず、骨格筋の細胞内情報伝達が変化することを見出した。今年度は昨年度に引き続き肥満における短時間のギプス固定が骨格筋の細胞内情報伝達ならびに遺伝子発現に及ぼす影響を検討した。昨年度サンプリング済みの速筋優位である足底筋と遅筋優位であるヒラメ筋について遺伝子解析ならびにタンパク質解析を行った。筋萎縮原因遺伝子であるMuscle RING-Finger Protein-1(MuRF1)とatrophy gene-1/muscle atrophy F-box(atrogin-1/MAFbx-1)の発現量を評価したところ、MuRF1遺伝子発現量は足底筋でのみ食事(Diet) に主効果が認められ、ヒラメ筋では変化がみられなかった。一方、atrogin-1/MAFbx-1遺伝子発現量はヒラメ筋でのみギプス固定処置(Treatment)に主効果が認められ(p<0.05)、足底筋では変化がみられなかった。炎症性サイトカインであるInterleukine-6(IL-6)の血液中タンパク質レベルは、高脂肪食負荷により増加傾向が認められた。骨格筋組織におけるIL-6遺伝子発現量を評価したところ、足底筋では肥満マウスのギプス固定足でのみ有意な発現増加が認められた。したがって、肥満が筋萎縮の進行を促進させるメカニズムの一つとして、筋萎縮後初期段階における炎症性メディエーターであるIL-6を介してタンパク質合成・分解関連のシグナル伝達経路に部分的に影響を与えることが示唆された。
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