本研究ではビタミンEが熱産生型脂肪細胞の機能に与える影響を検討しており、2019年度までの検討でδ-tocopherolが白色脂肪細胞において顕著にUCP1の発現を誘導する事を報告している。δ-tocopherolの添加は脂肪細胞においてPGC-1αの核内移行を亢進し、PGC-1αのノックダウンはδ-tocopherolの効果をキャンセルする。これらの結果から、δ-tocopherolによるUCP1の発現誘導はPGC-1αの発現誘導と活性化を介しているものと推察された。そこでPGC-1α活性化因子への影響について検討した結果、δ-tocopherol添加細胞ではp38 MAPKの発現量とリン酸化が亢進しており、δ-tocopherolの効果はp38 MAPKの阻害剤処理によっても抑制される事を明らかにした。 2020年度は高脂肪・高ショ糖食負荷による肥満モデルマウスを用いてビタミンE同族体摂取の効果を検討した。α-tocopherolとδ-tocopherolを摂取したマウスでは体重増加が有意に抑制され、病理組織学的検査から褐色脂肪組織における細胞の肥大化や炎症性細胞の浸潤が顕著に抑制されていた。そこでin vitroにおいても褐色脂肪細胞の機能にTocopherolが影響するか検討を行った。炎症性サイトカインはERKやJunkを介して褐色脂肪細胞における熱産生プログラムを阻害する。ラット初代培養褐色脂肪細胞にTNF-αを添加して炎症を惹起すると、UCP1の発現量は有意に低下した。α-tocopherolとδ-tocopherolの添加はTNF-α刺激によるERKの発現誘導を抑制し、UCP1の発現低下を有意に改善した。これらの結果は、Tocopherolが白色脂肪組織に存在するベージュ脂肪細胞のみならず、褐色脂肪組織の熱産生能も亢進する事で肥満を改善する可能性を示している。
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