高脂肪食摂取などにより引き起こされる糖尿病では、下痢や便秘を繰り返すなどの自律神経障害が出現することが知られているが、これらの自律神経障害のメカニズムは未だ十分に解明されていない。本研究の目的は、高脂肪摂取による腸管筋間神経叢内の神経伝達物質局在への影響を明らかにするとともに、新規治療薬である、Na+・グルコース共輸送体阻害剤(フロリジン)の投与による蠕動運動の改善効果を明らかにする。 1) SBF-SEMによる3次元再構築像では、腸管筋間神経叢の軸索内リソソーム表面積および体積では高脂肪食(HFD群)と通常食(STD群)に著明な変化は認めなかったが、リソソーム数では高脂肪食群で有意な減少を認めた。一方、高脂肪食群フロリジン投与(HFD-PLZ)後は、リソソーム数に有意な増加を認めた。 2) 1型糖尿病モデルマウス(STZ群)の3次元再構築では、HFD群と類似した軸索Varicosityの減少とともに、一部の筋間神経叢では断片化した瘤状の軸索が確認された。 3) 免疫組織化学的解析では、ChAT、VIPはSTD群に比べてHFD群で有意な増加を認めた。nNOSではSTD群に比べてHFD群で有意な減少を認め、Calbindinにおいても同様に有意な減少を認めた。一方、HFD-PLZ群では、ChAT、nNOSともにSTD群と類似した傾向がみられた。蠕動運動の計測では、STD群に比べてHFD群で有意な低下を認めた。 高脂肪食摂取により、耐糖能異常が引き起こされた前糖尿病期において、軸索のリソソーム動態の異常を惹起すること、さらにSTZ群の解析によりHFD群で観察された軸索Varicosityの減少が、軸索の断片化への前段階となっている可能性が示唆された。SGLT阻害薬がアウエルバッハ神経叢内のシナプス動態の保護とともに蠕動運動の改善に作用する可能性が示唆された。
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