本研究は、セリン欠乏が誘発する脂質代謝異常が、脳神経疾患等の病態発症に関わる可能性と、セリンの病態防御因子としての役割を明らかにすることを目的としている。 脳内のセリン合成酵素Phgdhの発現量は加齢に伴い減少し、またセリン欠乏は、細胞障害作用を持つ新奇スフィンゴ脂質、1-デオキシスフィンガニン (doxSA) などの産生を促すことが明らかとなっている。これらのことから、加齢に伴う脳内セリン合成能 (脳内セリン含量) の低下が、脂質代謝恒常性の破綻を介して、加齢性脳神経系疾患への脆弱性増加や、病態進行促進のリスクを高める可能性があると考えられる。そこで本研究では、セリンの細胞障害に対する防御機能という観点から、セリン欠乏に連関した脂質代謝基盤を明らかにするための実験的検証を行ってきた。 セリン欠乏に伴う脂質代謝変化を明らかにするため、本年度は、セリン合成酵素Phgdh欠損マウス胚由来線維芽細胞を用い、LC-TOFMSによる脂質の網羅的解析を行った。細胞の培養培地には新たに確立された、より厳密なセリン制限培地を用い、セリン添加またはセリン制限条件での培養を行った。その結果、セリン制限培養24時間において、30以上の脂質代謝物がセリン制限により有意に変動していることことが明らかとなった。この結果に、昨年度から引き続き行ってきたコレステロール合成酵素、及びコレステロール代謝関連遺伝子の遺伝子発現解析/タンパク質発現解析結果を合わせることで、コレステロール合成経路におけるセリン欠乏の影響について新たな知見を得ることができた。
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