独自に樹立したヒト胎児脳由来神経幹・前駆細胞(Neural Stem-Progenitor Cells: NSPCs)による胎生期脳曝露モデルを用い、アルコールや環境化学物質の胎生期曝露の影響を形態学的・分子遺伝学的に解析し、in vitroスクリーニング系の開発を企図し実験を進めてきた。 前年度までに、不死化しないNSPCsの培養技術を確立し、ビスフェノールA (BPA)曝露またはアルコール曝露後の用量依存的な神経系細胞分化への影響をタンパクレベルで評価した。評価は主に神経幹細胞マーカーや未熟神経細胞マーカーを用いた免疫細胞化学によって実施し、例えばBPA曝露後7日では、vehicle群に比し、神経幹細胞数割合が有意に減少し、分化が進んだ神経細胞数が有意に増加する結果を得た。また、発現遺伝子量の経時的評価においても、タンパクレベルでの評価と整合する結果を得た。 令和4年度は、タンパクレベルの現象について細胞数的特徴と形態学的特徴を同時評価すべく、AI技術を用いた画像評価システムを構築した。画像評価システムは、免疫細胞化学の複数のマーカーの蛍光画像を入力とし、推定される曝露物質を出力するものである。本システムの構築と評価には、細胞としてNSPCsを、マーカーとして神経幹細胞マーカーと未熟神経細胞マーカーを、曝露物質としてアルコールとBPAを用いており、所定の細胞画像から曝露物質の同定可能性が示された。本研究全体を通して、精神・神経系への胎生期曝露影響を評価したい化学物質をNSPCsへ曝露し、神経細胞系マーカーで免疫細胞化学を実施し、画像評価システムにて影響が近い既存物質を提示するという、汎用的なin vitroスクリーニング系につながる成果が得られた。将来的には、化学物質とともに治療薬候補を曝露し、影響軽減(治療効果)を測定することで、治療薬開発へ貢献できると考えられる。
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