研究課題/領域番号 |
18K18000
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研究機関 | 大阪大学 |
研究代表者 |
首藤 裕一 大阪大学, 情報科学研究科, 助教 (50643665)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | 動的ネットワーク / リーダ選挙 / 分散コンピューティング / 頑健性 / 自己安定アルゴリズム |
研究実績の概要 |
本研究は,個々の計算資源は乏しいが膨大な数の移動ノードで構成される動的ネットワークにおいて,ノードの故障や外部からの攻撃などの外乱によって不安定な状態に陥ったネットワークを高速に復旧するための基盤技術の確立を目的とする.このような動的ネットワークにおいて外乱が引き起こす異常状態から自律復旧を行う頑健なアルゴリズムは,多くのタスクについて実現不可能であるか,(実現できても)復旧時間が長く外乱発生のたびにシステムが長期間不安定状態に陥ることが多い.本研究は,外乱からの復旧完了後であってもわずかな確率で再度異常状態に陥る「ゆらぎ」を許容することをアプローチとして,動的ネットワークにおいても高速かつ頑健なアルゴリズム群を実現するための基盤技術を確立することを目指すものである.本研究によって,動的ネットワークの外乱に対する耐性を汎用的にかつ著しく高めることが期待できる. 初年度である本年度では,本研究の主題,すなわち動的ネットワークにおいて外乱に対して頑健かつ高速なアルゴリズムを設計可能であるかという問いを当初の目論見通り肯定的に解決することに成功した.具体的には,近年盛んに研究が行われている個体群モデル(population protocols)と呼ばれる動的ネットワークの計算モデルにおいて,多くの既存アルゴリズムが依拠する最も重大かつ基本的な問題のひとつであるリーダ選挙問題(ネットワークを構成する多数のノードのうち,ただひとつのノードにリーダという役割を与える問題)を頑健かつ高速に解くアルゴリズムを設計することに成功した.また,同モデルにおいて,頑健性は持たないものの,現時点で世界最速のリーダ選挙アルゴリズムを設計することにも成功した.この成果は,先に述べた頑健なリーダ選挙アルゴリズムをさらに高速化できる可能性があることを示唆している.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
本研究の初年度である平成30年度において,上記概要で述べたとおり,すでに本研究の主題である学術的「問い」に解を与え,個体群モデルにおいてネットワークの外乱(ノードの故障やノードの参加・離脱)に対して頑健かつ高速なリーダ選挙アルゴリズムを設計することに成功した.高速性について具体的に述べると,既存の頑健なリーダ選挙アルゴリズムのうち最も高速なアルゴリズムがノード数nに比例した実行時間(O(n))を要するのに対し,新たに提案したアルゴリズムはノード数に関する対数多項式時間(O(log^3 n))で計算を完了する.これは,簡単に言えば,これまで数時間を要した計算を数十秒で実行するような劇的な改善であるといえる.この結果は,brief announcementとしては分散コンピューティング分野における最難関国際会議(DISC 2018)で発表を行い,regular paperとしては同分野の主要な国際会議のひとつであるOPODIS 2018で発表を行った(ともに査読付き). また,個体群モデルにおいて,外乱に対して頑健ではない通常のリーダ選挙を実現するにあたり,既存の最も高速なアルゴリズムよりもさらに高速なアルゴリズムを設計することに成功した.具体的には,これまでのどの既存研究も達成できなかった,対数時間(O(log n))で計算を完了するアルゴリズムの設計に成功した.本モデルにおいてはどのようなアルゴリズムも対数時間未満でリーダ選挙問題を解くことは不可能であることが証明できるため,この提案アルゴリズムは,理論的にこれ以上改善しようのない最速のリーダ選挙アルゴリズムであることがいえる.この結果をまとめた論文はpreprintとしてはすでに一般公開しており,現在国際会議に投稿中である. 上記を踏まえ,本研究は当初の計画以上に進展していると言える.
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今後の研究の推進方策 |
上述の通り,動的ネットワークにおいて外乱に対して頑健かつ高速なリーダ選挙アルゴリズムの実現については平成30年度で既に達成した.次年度以降は,このリーダ選挙アルゴリズムをもとにして他の問題についても同様に頑健かつ高速なアルゴリズムの設計を試みる. また,「現在までの進捗状況」の項目で触れた,頑健性は持たないものの理論上最速(対数時間)でリーダ選挙を実現するアルゴリズムの存在は,頑健性を持たせた場合でも対数時間(O(log n))でリーダ選挙を実行できる可能性を示唆しており,その実現可否を考究することは本研究にとっての新たな課題のひとつとなった.平成31年度は優先的にこの新たな課題に取り組む予定である.
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次年度使用額が生じた理由 |
当初計画よりも早期に研究成果に恵まれ,初年度における対外発表による旅費経費が計画額を超過したため,初年度購入予定だった物品(シミュレーション解析用計算機)の購入を断念した.この調整の結果,3万円強の差額が生じた.差額は微少であるので,次年度以降,概ね計画通りに助成金を使用していく.
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