本研究課題では,オッズ比と呼ばれる量を扱った.オッズ比は統計学の文脈では,イベントの起こりやすさをあらわすオッズの比として定義される.さらに,尤度比やベイズ統計との関連も知られている量である.本研究課題では,特に幾何学的な側面から調査を行った.オッズ比は指数型分布族と呼ばれる対象においては自然パラメータと呼ばれるパラメトライゼーションになっているが,幾何学,特に情報幾何と呼ばれるアプローチのもとでは,平坦性の構造を表現する座標系(アファイン座標系)になっている. 本研究課題ではまず,ベイズ統計学においてマッチング事前分布と呼ばれている確率分布を考えた.特定の統計モデルにおいて,オッズ比をパラメータとしたときのマッチング事前分布を導出した. また,本研究課題では,空間の平坦構造を利用したパラメータ推定について考察した.スパースモデリングと呼ばれる推定のアプローチにより,基本的な時系列モデルにおけるパラメータの推定法を提案した.ARモデルとMAモデルは時系列の基本的なモデルだが,幾何学的なアファイン座標系を利用することにより,自然なスパース推定を行うことができる.さらに,時系列モデルに限らず,平坦な統計モデルにおいて,アファイン座標系と接空間を利用したスパース推定法を提案した. 最終年度には,応用分野への貢献として,物理化学におけるシミュレーションデータに対するスパース推定を検討し,有効な電子軌道のペアについて推定による選択にも取り組んだ.
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