最終年度にあたる2023年は、高次元独立標本に対する共分散構造の推測に関して研究を進めた。また、高次元独立標本に関するスパイク構造に関して研究を進めた。 研究期間全体を通し、主に高次元独立標本に対する統計的推測について、種々の検定に対する新たな手法を開発した。具体的には、ゲノム等の高次元小標本データの共分散行列がもつ強スパイクする固有空間の構造に着目し、高次元共分散行列の同等性検定、高次元共分散行列の構造に関する検定、高次元平均ベクトルの検定、高次元2次判別分析に対して成果を与えた。 ゲノム等の高次元データは巨大なノイズを含み、その巨大なノイズによって潜在情報が埋もれてしまう。そこで、ノイズの解析が非常に重要である。巨大なノイズは高次元共分散行列の固有空間に現れるため、本課題では高次元共分散行列の固有空間をモデル化し、そのモデルのもとで理論的な精度保証を与える統計的推測について結果を与えた。巨大なノイズとなる固有空間を特定し、ノイズを除去するようなデータ変換技術を用いて、高次元2次判別分析に新たな結果を与えた。高次元平均ベクトルの検定では、ノイズを除去するデータ変換技術を応用し、特に標本数が少ない状況で有用な検定手法を与えた。高次元共分散行列の同等性検定では、共分散行列の固有空間を潜在情報とノイズに分割した上で、異なる母集団のノイズの差異まで検出することで検定の精度を向上させた。高次元共分散行列の構造に関する検定では、異なるノイズの構造に対しても一貫した理論を構築することに成功した。
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