研究課題/領域番号 |
18K18016
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研究機関 | 立命館大学 |
研究代表者 |
原瀬 晋 立命館大学, 理工学部, 講師 (80610576)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | 擬似乱数 / モンテカルロ法 / 準モンテカルロ法 / マルコフ連鎖モンテカルロ法 / 統計計算 / ベイズ統計学 / 計算統計 |
研究実績の概要 |
マルコフ連鎖モンテカルロ法の期待値計算において、通常の準乱数はそのまま適用できない。スタンフォード大学のOwen教授らは、CUD列と呼ばれる特殊な点列を用いると、準モンテカルロ法が適用できることを、理論的に示した。ここで、計算機上でのCUD列の実装が問題となる。研究代表者は、擬似乱数と準乱数のテクニックを組合わせたCUD近似点集合の研究開発を行ってきた。 当該年度は、本研究課題の中核をなす研究成果である、2020年2月に投稿した、マルコフ連鎖準モンテカルロ法のための短い周期Tausworthe発生法の論文について、レフェリーの指示に従って改訂作業を行った。その結果、J. Comput. Appl. Math.に掲載が決定し、2021年3月に出版された。この論文の改訂を行う際、ギブスサンプリングに関する数値例のセクションを大幅に書き換えた。具体的には、典型的な2次元正規分布の例の他に、Gelfand-Smith(1990)による階層ベイズモデルの問題(原子力発電所のポンプの故障データ)を書き加えて、より実用的な問題においても、収束精度が向上することを示した。合わせて、モンテカルロ法の国際会議MCQMC2020、並びに、日本応用数理学会2020年度年会において、研究成果発表を行った。 この研究成果が嚆矢となり、様々な拡張と応用の方向性が開けた。現在、プロビット回帰モデルのベイズ推定などの実問題への応用、マルコフ連鎖準モンテカルロ法のソフトウェア開発、有限体の拡大体を用いた短い周期のTausworthe発生法の設計など、関連研究課題に取り組んでいる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
当該年度は、研究代表者の今までの研究実績の中で、過去最大の一つと言える研究成果が得られた。準モンテカルロ法は、1990年代に、金融工学に現れる高次元数値積分への応用を見出されて、脚光を浴びるようになった。しかしながら、金融工学以外の分野への応用は、いまだ限定的で、成功例がそれほど多くなく、適切な応用分野の開拓が重要課題の一つとなっていた。今回、新たに、マルコフ連鎖モンテカルロ法のための準乱数、すなわち、CUD近似点集合を開発して、ベイズ統計学の数値計算に適用したところ、いくつかの問題において、予想以上に相性が良いことが判明した。この結果は、実用性があり、研究成果が社会貢献につながるものと予想される。以上により、当初の計画以上に進展していると考えられる。
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今後の研究の推進方策 |
上記に述べたように、本研究課題の成果が発端となり、様々な拡張と応用の方向性が開けた。その中で、とりわけ優先順位の高い課題として、ソフトウェア開発がある。このたび、1年間の延長申請を行い、本研究課題を精緻化する意味で、ソフトウェアの開発を推進したい。現在、イリノイ工科大学の研究グループが、Pythonにおいて、QMCPyという準モンテカルロ法のライブラリ開発のプロジェクトを立ち上げている。特に、GitHubを駆使して、本研究のマルコフ連鎖モンテカルロ法のための準乱数を、このライブラリの中に組み込めないか、検討している。
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次年度使用額が生じた理由 |
コロナ禍により、当初、オックスフォード大学で開催される予定であった国際会議MCQMC2020を始め、国内外の学会出張が取りやめになり、オンライン開催に切り替わった。このため、未使用額が発生した。 次年度、研究成果の精緻化を目指し、数値実験及びソフトウェア開発を行うための計算機環境の整備、論文投稿の際の英文校正、統計科学・計算機科学の関連図書の購入など、研究費の使用を計画している。
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