被曝放射線量の推定は、放射線被曝の正確なリスクを定量的に推定するための重要な鍵となる。原爆被爆者の疫学研究において、線量推定値は被曝時の情報や線量推定体系に基づいて推定されている。しかし、被爆時の情報に含まれる不確実性のため、線量推定値には測定誤差が含まれ、放射線リスクの推定においては、その誤差の影響を考慮した統計解析が行われている。本研究では、近年の低線量被曝にあたる領域の放射線リスクへの関心の高まりから、低線量被曝のリスク推定に線量推定値の測定誤差がどれほど影響しているか統計学的に評価することを最初の目的としている。 本年度(2020年度)は、昨年度(2019年度)シミュレーションの結果をもとに、国内外の学会において生物統計、放射線疫学・放射線防護のそれぞれの分野で世界の中心として活躍している研究者の意見を聞いた際、放射線リスクの線量反応への測定誤差の影響についてより詳細な検討を求める声があったため、さらにシミュレーションの内容を増やし、作成中の論文の内容を充実させる方向で検討した。非線形(線形‐2次、など)の線量反応を仮定した線量とがん罹患リスク(過剰相対リスク)との関連のシミュレーション結果をまとめた論文の作成と共に、非線形の線量反応関係の推定においても測定誤差影響を適切に補正する統計解析の方法を検討し、論文作成を行ってきた。しかし、コロナ禍で予定していた議論の機会を逸したり、所属機関で原爆被爆者の放射線量推定のために別のプロジェクトが始まったこともあり、線量推定値の測定誤差に関する本研究の進捗が滞った。シミュレーション研究に基づいた、低線量域での放射線のがん罹患リスクの放射線線量反応についてひとつの可能性を示唆する論文を作成中である。
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