研究課題/領域番号 |
18K18046
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研究機関 | 国立研究開発法人情報通信研究機構 |
研究代表者 |
平山 孝弘 国立研究開発法人情報通信研究機構, ネットワークシステム研究所ネットワーク基盤研究室, 研究員 (70745687)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | ソフトウェア定義ネットワーク (SDN) / 分散SDN制御 / コントローラ配置問題 |
研究実績の概要 |
本研究計画では、情報ネットワーク(Software defined network, SDN)の分散制御基盤の実現に向けた、分散コントローラ配置決定手法と、コントローラ追加・移転先決定手法の検討を進めている。平成30年度は、特に分散コントローラ配置手法の検討、および性能評価を行い、国内研究会(電子情報通信学会情報ネットワーク研究会)および国際学会(Globecom 2019)にて発表を行った。 本研究計画では、初年度の目標として、与えられたネットワーク・トポロジー(隣接行列)に対して、SDNコントローラを分散的に設置する際に、短時間でSDNコントローラ-ネットワーク機器(スイッチ)間の平均遅延(経路長)を小さく抑えられるコントローラ配置を決定する手法の確立を掲げた。既存研究では、NP困難な施設配置問題に定式化し、目的関数(例えばコントローラ-スイッチ間の遅延の最小化など)の最適値が得られる配置を決定する手法が一般的であった。しかしながら、この手法は解の探索に多大な時間を要する。そこで本研究計画では、リンクの特徴を表す指標の一つである、顕著性(Salience)に着目し、コントローラの配置を決定する手法を提案した。顕著性が高いリンクを多く持つノードにコントローラを優先的に配置することで、短時間でコントローラ-スイッチ間の平均遅延を小さく抑えられるようなコントローラ配置を得られることを、計算機シミュレーションにより確認した。 本研究計画では、顕著性という複雑系科学の知見を利用しており、こうした知見が情報ネットワークへの応用に限らず、最適化問題に依らない新たなアプローチによる施設配置問題の解き方へ応用できることが示された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当初の研究計画では、手法の検討、および性能評価を進めつつ、国内学会および国際会議で年に1回ずつの研究発表を行う計画であった。平成30年度はその目標通りの成果を挙げることができたため、順調に進展していると判断できる。 手法の検討、および性能評価に関しては、最適化問題に依らないアプローチを用いつつ、性能を大きくは劣化させないコントローラ配置を決定する手法の確立に至った点を評価する。顕著性を用いたコントローラ配置と、最適化問題に基づく配置に比べて性能(コントローラ-スイッチ間の平均経路長)が13~15%増加する程度で、顕著性と似た指標である媒介中心性を用いて配置を決定した場合(25%増加)と比較すると、より効率的にコントローラを配置できていると言える。 研究発表に関しては、国内では平成31年9月に開催された電子情報通信学会情報ネットワーク研究会にて発表を行った。また、同研究はIEEE系の2大国際会議の一画であるGlobecom(平成31年12月、開催地: アブダビ)に採録され、海外でも発表を行い、国内外でそれぞれ1件の研究発表目標を達成した。
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今後の研究の推進方策 |
第一段階の成果をまとめ、国際論文誌(査読付き)に投稿する予定である。また、本研究計画の第二段階として掲げていた、コントローラ追加位置・および移転先決定手法の検討を進める。 計画の第一段階(平成30年度の業績)では、ネットワーク・トポロジーが固定であるという前提のもとで、コントローラの配置を決定するという課題に取り組んだ。しかしながら、近年のネットワーク仮想化技術(NFV)の発展に伴い、ネットワーク・トポロジーの形状(ノード数や隣接行列)は状況に合わせ変化していくことが見込まれる。そこで計画の第二段階では、ノード数が増加するごとにコントローラを増設する場合の新規コントローラ追加位置・及び既存コントローラの移転先を決定する手法を検討する。事前検証では、最適化問題による配置決定では、前状態と自状態の差分が大きく、多数のコントローラを追加・移転させる必要が生じるが、顕著性に基づく配置では、比較的少ないコントローラの移転回数で最適解に近い値を得られることを確認している。平成31年度は、手法の確立に向けたアルゴリズムの検討および当手法の性能評価を進めていく。 本研究計画を立案した当初は、スイッチの機能をソフトウェア化するSDN技術にのみ焦点を当てていたが、近年では、スイッチ機能に限らずネットワークサービスの機能をソフトウェア化するNFV技術に関する研究が盛んである。本研究計画のアプローチは、SDNに限らずNFVへの応用できる手法であると考えられるため、本年度はNFVの機能(Function)配置問題への応用へ向けた拡張も同時に進めていく予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
平成30年度(昨年度)の研究成果を、国際論文誌に投稿すべく準備を進め、英語論文原稿の英文校閲費用と論文掲載料に充てる計画であったが、論文原稿の作成が年度内には完了しなかったため、次年度使用額が生じた。当該金額は、昨年度末から今年度初頭にかけて作成した論文原稿の、英文校閲費用および採録時の論文掲載料に充てる計画である。
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