研究課題/領域番号 |
18K18055
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研究機関 | 国立研究開発法人産業技術総合研究所 |
研究代表者 |
坂井 祐介 国立研究開発法人産業技術総合研究所, 情報・人間工学領域, 研究員 (40750659)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | 匿名通信 / 匿名認証 / ゼロ知識証明 |
研究実績の概要 |
本研究の目標とする暗号技術は、利用者のプライバシを保護したまま身元の認証を行いつつ匿名で通信を行える、匿名認証付匿名ルーティングである。 本年度は、そのための重要な要素技術であるゼロ知識証明について研究を進め、特に、ゼロ知識証明を用いた匿名認証技術の一種である属性ベース署名に関して以下のような成果を得た。属性ベース署名とは、署名の発行者が自身がある属性を有することを第三者に証明できる暗号要素技術であり、そのとき、署名者の属性がある条件を満たしていることのみが証明され、そのような条件を満たすもののうちいずれであるのかについては秘匿されるという性質を持つものである。この要素技術において、利用できる条件をより広いものに拡張していくことは、同要素技術の研究において中心的な課題の一つである。本研究では、任意のチューリング機械を用いて条件を記述でき、属性として長さに制限のない任意の文字列を利用できる属性ベース署名方式を設計した。 また、同じくゼロ知識証明を用いた匿名認証技術の一種であるグループ署名について、以下のような成果を得た。グループ署名とは、グループに所属する各利用者が、自身がそのグループに所属することを第三者に証明できる暗号要素技術である。このとき、第三者には、署名者がグループに属していることのみが開示され、署名者の具体的なIDについては秘匿されるという性質を持つ。この要素技術において、署名者のグループからの脱退は重要な課題の一つである。特に、脱退を可能にするためのアプローチとして検証者ローカル失効と呼ばれるものが知られているが、このアプローチでは署名者の鍵が漏洩したときにIDの秘匿性が必ずしも保たれないことが知られていた。本研究では、鍵漏洩下でもIDが秘匿される、初めての検証者ローカル失効グループ署名方式を設計した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度までの研究はおおむね順調に進行している。これまで、上記2つの成果に加えて、本研究課題の中心的な要素技術であるGroth-Sahai証明系に関して、下記のような成果を得ている。Groth-Sahai証明系と呼ばれるゼロ知識証明と呼ばれる暗号要素技術の一種が知られているが、この技術は、単にゼロ知識証明としての機能を提供するに留まらず、再ランダム化可能性とよばれる有用な性質を備えている。この性質は、本研究課題の研究対象である匿名ルーティングに関する応用も知られている。また、IDベース暗号と呼ばれる、従来の公開鍵暗号と比較して極めて簡便な鍵管理を実現するパラダイムが知られているが、このIDベース暗号による簡便な鍵管理と上述の匿名ルーティングとを両立させる方法は、これまで知られていなかった。本年度、この2つの技術の両立に向けた重要な要素技術となる、再ランダム化可能IDベース暗号の設計を行った。この技術は、本研究課題の目標である匿名認証付匿名ルーティングにおいても、重要な要素技術としての活用が見込まれるものである。
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今後の研究の推進方策 |
次年度は、以下のようにして研究を進める計画である。まず、匿名認証付匿名ルーティングに関して、求められる機能要件、安全性要件を整理し、暗号要素技術として形式化する。それにあたり、これまで研究が進められてきた匿名ルーティング単体、匿名認証単体での機能要件、安全性要件を網羅的に調査し、それらを統合することで匿名認証付匿名ルーティングとして形式化する。その作業が順調に進行した場合は、それら機能要件、安全性要件を達成する具体的な方式の設計に取り組む。それに際しては、上記再ランダム化可能IDベース暗号の設計において得た知見を活用し、効率的な方式の設計を目指す。
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