本年度は,これまでの研究で開発した疎行列向け高性能三重対角化に対する,置換前処理技術を中心に研究を行った.前年度までの理論的検討により,ある特別なクラスの疎行列に対しては置換前処理が有効でないことが明らかにされていたが,それ以外の場合については知られていなかった.そこで本年度の研究では,様々な疎行列に対して Reverse Cuthill McKee リオーダリングをはじめとする置換前処理を適用し,開発した疎行列三重対角化に対する前処理としての有効性を評価した.本研究により多くの疎行列に対して Reverse Cuthill McKee リオーダリング前処理は開発した疎行列三重対角化の計算量を大きく削減し,実行時間削減にも寄与することが確認された.特に,前処理適用前は疎行列向け三重対角化が従来の三重対角化手法に対して劣る一部の疎行列に対しても,前処理の適用により疎行列向け三重対角化が優位になるケースが多く見られた.しかしながら,計算量の削減比ほどには実行時間が削減されないことも明らかになった.この現象は,置換前処理による帯幅削減の結果,計算回数に対する主記憶アクセスが増大し,疎行列三重対角化の計算効率が低下したことが原因であり,この問題の解決は今後の課題である. 本年度の研究により,多くの疎行列に対して有効な疎行列三重対角化の仕組みが実現された.この仕組みに既存の三重対角行列に対する固有値ソルバを組み合わせることにより,実対称疎行列の全固有値を容易に求められるようになった.
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