2021年度は,前年度に引き続き,線形反復ソルバーに対する平滑化技術の解析と,その拡張に関する研究を行った.結果として,複数の右辺ベクトルを持つ連立一次方程式やシルベスター方程式など一般の行列方程式向けの反復ソルバーに対し,平滑化技術を用いて近似解精度を向上させる手法を確立した.特に,前年度からの延長課題であった,計算機上で生じる丸め誤差の解析を実施するとともに,応用分野で現れる様々なタイプの行列に対して数値実験を行い,提案手法の有用性を示した.研究成果の一部は2021年5月に開催された国際会議SIAM Conference on Applied Linear Algebraにて口頭発表した.また,関連論文をプレプリント・サーバである arXiv に公開するとともに,国際的な査読付き学術雑誌に投稿した. また,前年度に日本応用数理学会機関誌「応用数理」に寄稿した積型Bi-CG法の新しいフレームワークに関する論文について,当該学会よりベストオーサー賞の授与を受けた.反復ソルバーのユーザーなど応用数理分野の研究者・技術者に対して有益な情報を提供できたと考える. 一方,リーマン多様体上の最適化アルゴリズムへの応用については,研究協力者と議論を重ね,リーマン多様体上のニュートン方程式など,より複雑な行列方程式に適用可能な反復ソルバーの開発が必要不可欠であることを再認識し,新たな研究の方向性を見出した.
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