本研究では,オリーブ蝸牛束に可塑的変化が生じる神経基盤を解明するとともに,最適なトレーニング条件の導出を目指す. 聴覚皮質からオリーブ蝸牛束へは遠心性神経が接続している.聴覚皮質の活動は,学習によって可塑的に変化することが知られている.それゆえ,皮質由来の遠心性神経系が,オリーブ蝸牛束の機能を可塑的に変化させる神経基盤となる可能性がある.しかしながら,皮質からの遠心性経路は多岐にわたり,オリーブ蝸牛束反射を制御する神経基盤は未だ明かになっていない.本年度は,脳波とオリーブ蝸牛束反射を同時に計測することで,注意課題実行時の聴覚皮質の活動とオリーブ蝸牛束反射の強度の時間変動のパターンに相関があることを見出した.さらに,妨害課題実行時に,オリーブ蝸牛束反射の強度が減少し,その減少量に比例して雑音下での聴取成績が低下することも見出した.これまで,注意や予期などの高次認知機能によってオリーブ蝸牛束反射が変動することは示されてきたが,その変動が聴取に与える影響は示されてこなかった.皮質の活動,聴取成績,および,オリーブ蝸牛束反射の相関は,聴取トレーニングによりオリーブ蝸牛束反射が増強し,雑音下での聴取能力が向上する可能性があることを示している.
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