研究実績の概要 |
本研究の目的は,脳波の各部位間における動的位相差の複雑性の変化に着目することで,認知症における神経ネットワーク変質の新たな特性を捉え,初期の認知症や認知症の前段階である軽度認知障害での神経ネットワーク変質を検出する診断システムを構築することである.この目的を達成するため,2018年度は福井大学医学部精神科において計測された若年者(29名)と高齢者(18名)の脳波データに対して,我々が考案したヒルベルト変換とアンラップ処理による動的位相差の作成アルゴリズムに従い脳波電極の各組合せに対する位相差時系列を作成した.次に,この位相差時系列に対して,複雑性解析(マルチスケールエントロピー解析)を行ったところ,前頭を中心としたネットワークにおいて,加齢による動的位相差の複雑性の上昇が確認された(Nobukawa et al, NeuroImage, 2019). 認知症における神経ネットワークの変質は,脳活動の複雑性に影響を与えることが知られている.我々は,この複雑性の変質を,健常な高齢者(18人)とアルツハイマー型認知症患者(16名)の脳波に対して新たに考案したtemporal-scale-specific fractal dimensionにより評価した.その結果,gamma波帯域の脳波において,顕著な複雑性の低下が観測され,その程度は認知機能の低下と相関することが明らかとなった(Nobukawa et al. Cognitive Neurodynamics, 2019).ただし, 加齢で観測されたような位相差の複雑性の変質については,現在のところ観測できていない. 脳活動シミュレータによる研究としては,現在までに,脳活動の複雑性とネットワークトポロジー/シナプス荷重の対数正規性との関係を明らかにしている(Nobukawa et al, IEEE ICCI*CC 2018 他3本).
|