研究実績の概要 |
本研究の目的は,脳波の動的位相差(DPS)の複雑性の変化に着目し,認知症における神経ネットワーク変質の新たな特性を捉え,初期の認知症での神経ネットワーク変質を検出する診断システムの構築である. 2020年度では大域的なDPS特性の解析手法を開発し,認知症の大域的DPS特性の変質を捉えることに成功した(Nobukawa et al. in prep.). 更に,alpha帯域の機能的結合/DPSと認知機能が高い相関を示すことを確認した(Nobukawa et al. Frontiers in Human Neuroscience, 2020, Nobukawa et al. in prep.).脳活動シミュレータ構築に関しては,複数の大脳皮質の神経回路のモジュールを組み合わせることで,認知症にみられる神経活動の位相ダイナミクスの生成に成功した(Nobukawa et al. IEEE Transactions on Neural Networks and Learning Systems, 2020).また,機械学習を用いた認知症の推定法についても複雑性,機能的結合,DPSを複合的に用いることで,高い精度での予測を達成している(Nobukawa et al. Frontiers in Psychiatry, 2020, Nobukawa et al. in prep). 研究期間全体の取り組みにより,加齢/認知症の横断的脳波データにおけるDPS特性の評価,認知症へ至る縦断的脳波データに対するDPSの複雑性プロフィールと認知機能の相関解析,DPSを生成する脳活動シミュレータの構築は当初の予定通り達成された.更なる取り組みとして,大域的なDPS特性をモデル化することにより,神経ネットワーク変質の進行と認知症の発症リスクを予測する脳活動シミュレータの構築につながるものと考えている.
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