初年度の後半に取り組んだ抵抗距離を足がかりとした研究は、当初の方向性(ランダムグラフモデルを用いた解析)では有力な結果を得ることができないことが理論計算から明らかになった。またその後、同様の結果を、異なるアプローチで理論計算機科学の研究者らが10年ほど前に発見していたことが判明した。この研究にはまだ十分な見込みがあるが、一度保留にすることとした。 当初の2部グラフ緩和の問題に改めて取り組み、計画書の方向とは若干異なるアプローチを、Oxford大学のR. Lambiotte氏や香川大学の青木氏と共に議論を重ねた。こちらもいくらかの進展が見られたが、論文となるほどの段階には達していない。 次に、ひとまず2部グラフ制約を緩和することに囚われるのをやめ、2部グラフのコミュニティ検出の振る舞いを理解することを目標として、2部グラフに対するスペクトル法の摂動論を展開した。こちらについては順調に研究が進み、形式解、粗い平均場解析、レプリカ法を用いた分布方程式としての平均場方程式を導出し、論文を執筆した。この研究には、さらに伸び代が見込まれる。 さらに、東京工業大学の野口氏との共同研究で、オーバーラップ構造のあるグラフにおいてのスペクトル法を用いたコミュニティ検出の理論解析を行い、現在論文投稿中である。枝にラベルがついたグラフのコミュニティ検出に対する数値実験ベースの研究も、産総研テクニカルスタッフの橋本氏と共に進め、国際会議にてポスター発表を行なった。 2部グラフの緩和問題は、当初想定していた以上に難易度が高く、また(熱力学極限が普通には取れないという意味で)統計力学の枠組みで扱うことは困難であることが明らかになってきた。しかし、本研究の大きなビジョンは、2部グラフの分析についての理解を深化させることであったため、その意味では一定の成果をあげることができたと考えている。
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