研究課題/領域番号 |
18K18138
|
研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
白松 知世 東京大学, 大学院情報理工学系研究科, 助教 (30750020)
|
研究期間 (年度) |
2019-02-01 – 2022-03-31
|
キーワード | 和音 / 臨界期 / 聴覚野 / 嗜好性 / 受容野 |
研究実績の概要 |
本研究は,和音の質感知覚や顕著性,選好性に関わる神経基盤の獲得メカニズムの解明を目指すことを目的としている.具体的には,音の質感として和音の協和性に注目し,ラットをモデル動物として,(1) 臨界期における特定の音への曝露や (2) 臨界期後の条件付け学習が,(A) 協和性の弁別能力や顕著性,選好性に及ぼす影響を行動実験で定量化し,(B) 聴覚皮質と視床における神経細胞の応答特性および和音の質感の神経表現に及ぼす影響を電気生理実験で調べる. 本年度は,ラットを臨界期 (P8から30) に10種類の (i) 協和音または (ii) 不協和音に曝露した群,臨界期後 (P31から53) に同じ (iii) 協和音または (iv) 不協和音に曝露した群と,(v)自然環境下で生育した群,それぞれ10匹以上について,選好性の定量化と聴皮質4層の神経細胞の応答特性をそれぞれ調べた.まず,和音への曝露を経験したのち8週齢まで生育したラットに対して,曝露に用いていない新規の協和音,不協和音に対する選好性を調べた.その結果,臨界期に (i) 協和音に曝露した群は,不協和音への選好性が協和音よりも高かった.また,臨界期に (ii) 不協和音に曝露した群は,協和音への選好性が不協和音よりも高かった.臨界期後に曝露した群 ((iii), (iv)) および (v) 自然環境下で生育した群では,そのような選好性は認められなかった.これらの結果は,臨界期中の音曝露が,和音に対する選好性に影響を及ぼすことを示唆する. また,それぞれのラットの聴覚皮質第4層から微小電極アレイで神経活動を多点同時計測し,各計測点での応答特性として受容野から特徴周波数を定義した.特徴周波数の空間分布が自然環境下で生育した動物と大差なかったことから,幅広く選択した和音への曝露が,聴皮質の周波数局在性を大きく変化させないことを確認した.
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
年度前半は,感染症に伴う実験施設への入構制限の影響を受けた.また,昨年度の行動実験の結果を受けて,適切な対照群を追加したため,研究計画の(1)のデータ取得が長引いた.最終的には,臨界期に音曝露した群,および対照群についての,行動実験,電気生理実験のデータ計測を完了した.
|
今後の研究の推進方策 |
本年度計測したデータを解析して,聴皮質の倍音選択性を受容野から定量化する.また,和音の変化に対するミスマッチネガティビティや,和音に対する定常的な神経活動の位相同期度を群間で比較することで,和音への曝露が音の質感に対する聴皮質の情報処理をどのように変化させるかを明らかにする. また,臨界期後の条件付け学習が,選好性や神経活動に及ぼす影響を評価するため,条件付け学習を施す実験系の構築に着手する予定である.
|
次年度使用額が生じた理由 |
当該年度前半の,研究施設への入構制限により,一時期飼育・実験が中断されたため,実験に用いる物品の支出が当初の予定よりも少なかった.また,出張も制限されたため,旅費も当初の予定よりも少なかった. 実験計画自体に大きな変更はないため,次年度以降,計画通りに使用される予定である.
|