本研究は,和音の質感知覚や顕著性,選好性に関わる神経基盤の獲得メカニズムの解明を目指すことを目的としている. 本年度は,音の質感としてリズムに着目し,音楽のリズムの情報表現が,哺乳類に共通した神経基盤で説明できるかを調べた.音楽のリズム系列を,原曲のテンポに対して75-400%の再生速度で提示して,活動電位を多点計測し,拍とそれ以外の音に対する活動電位の比率として,拍における神経活動の強調を定量化した.また,順応モデルを構築するために,単純なリズム音列を提示して,音間隔と順応の強さとの関係を活動電位から得た.一般的な神経細胞の順応モデルと本モデルを,音楽のリズム系列に適用したところ,拍に対する神経活動の強調と,再生速度との関係は,本モデルが最もよく説明できた. さらに,無線加速度計をラットの頭部に設置し,様々なテンポの音楽提示下で自由行動中の3軸の加速度を計測した.その結果,ラットもヒトと同様に,75%と100%の再生速度で,拍に対する同期運動が誘発されることが明らかになった.これらの結果は,聴覚野でのリズム情報処理や拍への運動同期の神経基盤には,哺乳類が生得的に有している聴覚野の順応特性が貢献していることを示唆する. 研究機関全体を通して得られた成果は,和音やリズムといった音の質感に対する情報処理の神経基盤は,順応といった生得的な神経特性が貢献することに加え,生後の臨界期における聴覚経験を通して獲得した神経特性にも影響されることを示唆する.
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