研究課題/領域番号 |
18K18139
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研究機関 | 慶應義塾大学 |
研究代表者 |
森本 智志 慶應義塾大学, 先導研究センター(日吉), 特任助教 (90794230)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | 音楽知覚 / 音楽的期待 / 和音 / 計算モデル / 脳波 / 機械学習 |
研究実績の概要 |
本研究は音楽刺激聴取時に調性知覚をもたらす神経基盤を計算論的な立場から明らかにし、その情報処理が音楽刺激以外の時系列刺激に対する知覚においても共通して用いられているという仮説の検証を目的としている。 2020年度は当初計画の最終年度であり、脳活動計測実験を中心に実施する計画であった。しかし新型コロナウィルスによる社会情勢の変化の影響により実施の目途が立たず断念した。代わって近年様々な脳活動データベースが公開されていることから、既存データベースについて調査を実施した。本研究では従来の調性音楽研究とは異なり、広く一般的な和音刺激の組み合わせを用いることでヒトの内的な計算過程を明らかにしてきた。既存データベースの多くは古典的な調性楽曲を用いているケースがほとんどであったため、和音の組み合わせ等がシミュレーション上モデルの妥当性を主張する上では不十分であることが示唆された。しかしモデルの検証が限定的な範囲に留まることを許容すれば実施することは可能であり、引き続き検討することとした。 また前年度に行った脳活動計測実験の条件整理を目的としたシミュレーション実験のパラダイムを利用し、心理学的知見に基づく楽曲生成アルゴリズムについて国際会議での対外発表を検討したが、会議自体が延期となった。 一方で行動と脳活動、或いは行動同士の対応関係を示すため、移動エントロピーを用いた相互作用の定量化について引き続きシミュレーションに基づく検証を進めた。移動エントロピーの計算には適切な離散化処理が必要である。行動応答の時間的な相互作用を扱う場合は、行動の単位時間も併せて推定する必要があり、それらを統合したフローを確立した。しかし現時点では、離散化数の最適化において不安定な挙動が確認されており改善が求められる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
緊急事態宣言の発出及びその後の感染拡大に伴う可能な限りのオンラインワークを推奨する体制への移行により、計画していた脳活動計測は実施できず、補助金の一年間の期間延長申請を行った。一方で補助金期間延長と脳活動計測実施が厳しい状況が継続することを念頭に、シミュレーションに基づくモデルの検証の模索や解析手法の開発を進めた。また、オンライン行動実験を円滑に実施できるよう、改めてツールのインターフェイスやデータの検証を行った。解析手法の開発については当初の予定以上に進んでおり順調である。シミュレーション実験やオンライン実験の検証は当初計画の予定外の内容であるが、本実験の実施前段階として十分な知見が得られたと考えている。 しかし全体的には2019年度分の遅れを取り戻せたとは言い難く、これらの状況を総合して本年度の進捗状況を(3)と自己評価した。
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今後の研究の推進方策 |
脳活動計測実験については、残念ながら当初計画通りの実施は断念せざる得ない状況だと判断した。小規模での実施や、オープンデータベースを用いた限定的な検証など、年度内で可能な範囲について社会状況を見極めながら検討する。 代わってオンライン行動実験を中心として和音知覚モデルの検証を進める。これまで計測していない長い和音系列に対する知覚データの収集はもちろん、オンライン実験の特色を生かした幅広い層の参加者からのデータ収集を進める一方で、当初計画では発展的研究の扱いであった音楽以外の時系列刺激に対するデータ収集を重点的に実施することを通じて、提案モデルの普遍性を様々な角度から検証する。これらにより当初計画とは異なる形になるが、提案モデルの妥当性を示すことができると考える。
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次年度使用額が生じた理由 |
2020年度始めの段階で緊急事態宣言の発出を受け、大学での実験実施が当面不可能になる可能性を念頭にオンライン実験の実施について検討してきた。しかし研究計画の中心は施設利用料等の多額の費用を要する脳活動計測であることから、一年の期間延長を含めて実験が再開できる状況になれば脳計測実験を優先的に行えるように予算の執行を抑制的に留めた。更に参加を予定していた学会も中止となり出張等も控えたことから、使用額がほとんどない状況になった。 2021年度は、オンライン実験と大規模解析のための環境整備、成果発表を中心に予算を執行していく。特に解析面に関しては現状の計算資源では不足が明らかであるため、小型のワークステーションを追加で購入する予定である。また、当初予定であった脳活動計測を可能な範囲で実施できるように、老朽化して不安定なイヤーシミュレータ等の計測装置などを購入する。
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