人間の行動におけるスケーリング則(f(x) ~ x^a)を解析し、脳や認知機能との関係を明らかにすることで、行動パターンのプロセス解明と認知機能低下の予測および予防手法の開発を目指した。2021年度は主に2つの課題に取り組んだ。1つ目は会話データにおける単語の意味空間での移動を定量化し、移動のパターンやスケーリング即の認知機能スコアとの関連を解析した。その結果、会話において単語間を大きく移動している被験者は認知機能スコアが高いことが明らかになった。容易に計測可能な会話データから認知機能の予測モデルを構築するための基礎的な知見になると思われる。現在、この結果をまとめて論文執筆中である。2つ目は、探索行動に関わると考えられる神経ダイナミクスのシミュレーションを、確率的な leaky integrate-and-fire neurons のニューラルネットワークを用いて実行し、認知機能と関連すると考えられている臨界現象がどのようにordered phaseとdisordered phaseの間で維持されるのかを自己組織化臨界の観点から解析した。神経ネットワークの構造がどのように自己組織化臨界に関わるのかを解析した。これによって、脳のシステムがどのようなネットワーク構造であれば容易に臨界点に維持され、認知機能が高いままでいられるかの基礎理論につながると考えられる。また老化に伴い、脳システムがどのような壊れ方であれば、脳機能が衰えずに保たれるかの知見にもなりうる。現在、その結果をまとめて論文執筆中である。
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