前年度までに、脳情報を組み込んで人間らしい判断を行う人工知能システムを実現する目的で、任意の視聴覚情報を深層学習に入力したうえで、脳情報を介して入力と結びついた認知ラベルを推定する手法「脳媒介転移学習(Brain-mediated transfer learning; BTL)」の開発に成功した。本年度は、まず個々人の脳を媒介することが可能なBTLが、知覚の個人差の推定に対して効果的に用いることが可能かどうかを調べるために、映像に対して個々人が好き嫌いの度合いを評定したラベル付けデータを使用して、BTLが好き嫌いの個人差の推定に利用可能であることの検証を行った。その結果、深層学習モデルがBTLを利用して脳情報を媒介するにより、同じ深層学習モデルが脳情報を媒介しないときより個々人の好き嫌い評定ラベルを高い精度で推定することが可能なことを示すことに成功した。また、別の方向性の試みとして、BTLの応用範囲を広げる目的で、任意の文章を自然言語処理モデルの一つである単語の分散表現に入力したうえで、脳情報を介して入力と結びついた認知ラベルを推定する、任意の文章入力に対応したBTLの開発を行った。その結果、文章に対する印象および好き嫌いの評定ラベルの推定において、脳情報を介さないときに比べて、高い推定精度を実現する手法の開発に成功した。この研究成果は、人工知能学会第34回全国大会にて発表を行い、徴収から高い評価を受けて全国大会優秀賞を受賞するに至った。
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