研究課題/領域番号 |
18K18144
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研究機関 | 東北大学 |
研究代表者 |
川又 生吹 東北大学, 工学研究科, 助教 (30733977)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | DNAオリガミ / データベース / 設計ソフトウェア / 分子ロボティクス |
研究実績の概要 |
2019年度は、前年度に構築したDNAオリガミのデータベースのデータの拡充を行った。現在およそ1800種類のDNAオリガミの設計図が保存されている。具体的には、長方形、直方体、ロッドなどの基本となる形状のDNAオリガミの設計図をスクリプトによって自動生成し、カタログから所望のサイズの形状を選択できる。さらに、論文としてすでに報告されている三角形、六角形、星形などの形状についても、申請者が論文を参考に設計図を作成し、およそ30種類の構造が登録可能な状態である。 前年度から開発しているDNAオリガミヘテロ多量体を作製するためのソフトウェアについて、機能拡張を行った。具体的には、複数の設計図の読み込み、構造体の平行および回転移動、結合が可能になった。結合時には、DNAの要素である塩基間の距離を自動的に計算し、幾何学的に結合可能な塩基の組み合わせを自動的に抽出するアルゴリズムを実装した。抽出時アルゴリズムは、抽象化したDNA構造体のデータ構造の特徴を最大限利用し、効率的な枝刈りにより高速化することに成功した。また、構築したデータベースに本ソフトウェアを統合し、アクセス可能なユーザーに公開した。 これらの成果は、2019年5月にフィンランド、2019年8月にアメリカで行われた国際会議、2019年10月に東京で行われたCBI学会において発表した。さらに、本研究で獲得したノウハウを使い、湾曲可能なロッド状のDNAオリガミ構造を設計し、実験的に作製することに成功し、2020年にAngewandte Chemi International Editionにおいて報告した。湾曲可能な構造は、同一モジュールを繰り返した構造であり、本研究の大規模化の方針を採用している。さらに、モジュールに使われるDNAの長さを変更することで、湾曲の具合をプログラム可能であることを証明した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
DNAオリガミのデータベースについては、制限付きではあるが計画通り公開しており、登録されている構造体の個数も順調に増加している。特に長方形、直方体、ロッドなどの基本形状のDNAオリガミ設計図が充実しており、パーツライブラリとしての機能が満たされていると考えられる。さらに、関連研究を行っているユーザーからフィードバックをもらい、複数のファイルフォーマットに対応するなど、改良を進めている。 設計ソフトウェアについては、抽象化されたDNAオリガミ構造体の設計図に対して、様々な操作を効率よく行うことができおり、単純な形状を組み合わせた複合体の設計に成功している。さらにオンラインソフトウェアとして開発していたため、データベースに統合することが可能となり、ウェブブラウザさえあれば、どのユーザーでも利用可能となっている。また、ソフトウェアのインターフェースにおいて可視化の方法に選択肢を設け、原子~分子~構造体など様々なレベルでDNAオリガミ複合体を理解することが可能となった。 実験研究としては、本研究で得たノウハウを活用して作製したロッド状DNAオリガミ構造の形状変化を観察し、2020年に論文として報告した。ロッド状DNAオリガミ構造では、小さなモジュールを組み合わせており、やや小規模なモデルではあるが、複合体を作成する提案手法を実証することに成功したといえる。 また、2020年に国内外の会議において成果報告を行う予定であったが、COVID-19の影響により、そのほとんどが中止となった。ユーザーから直接フィードバックを得る機会が失われたものの、オンラインでフィードバックを集めているところである。これらの理由で、本研究はおおむね順調に進展している。といえる。
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今後の研究の推進方策 |
DNAオリガミ構造のデータベースでは、既存の論文として報告されているデータが不足している。2020年度は、申請者が集中的に設計図を作成し、さらなるデータの追加を目指す予定である。またデータベースに、ユーザー登録機能や、データの公開範囲を設定する情報管理機能を追加し、広くデータベースを公開したい。 開発中の設計ソフトウェアについては、DNAオリガミ大規模複合体の作製に向けて、軽量化を行い、100万~1000万原子レベルの構造体をストレスなく操作可能にする予定である。そのためには、立体的なDNAオリガミ構造体の可視化の際に、不要な三次元データにアクセスしない工夫などを行う。最終的には、申請書に描いた想像図のような、大規模DNAオリガミ複合体の設計する。 設計した複合体については、実験的に作製し、本研究の妥当性を検証する予定であったが、COVID-19の影響により実験室が封鎖されたため、当初の予定通り進めることは難しいと考えられる。そのため、ソフトウェア開発などを中心とした、理論研究に一部内容を変更する。 その第一歩として、データベースに登録されたDNAオリガミの設計図を入力とし、既存のDNA粗視化分子動力学ソフトウェアにより分子の振舞いをシミュレーションし、出力を画像として可視化するスクリプトを作成した。今後は、データベースに新たなインターフェースを追加し、ユーザーが簡単に粗視化分子動力学シミュレーションを行える環境を整える予定である。 本研究で得られた成果については、現在教科書を執筆中であり、また論文の執筆に向けて準備中である。本科研費が終了する前後のタイミングで出版可能となるように作業を進めたい。
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次年度使用額が生じた理由 |
COVID-19の影響により、国内出張がキャンセルとなった。また、予定した実験も一部中止する必要に迫られた。研究内容を理論研究にシフトしたものの、予算の一部は次年度に使用することにした。
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