研究課題/領域番号 |
18K18150
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研究機関 | 筑波大学 |
研究代表者 |
吉野 龍ノ介 筑波大学, 医学医療系, 助教 (50817575)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | フラグメント分子軌道法 / ファーマコフォアモデリング / IT創薬 / in silico創薬 / ケモインフォマティクス |
研究実績の概要 |
本申請課題である「FMO法による相互作用解析情報を用いたファーマコフォアモデリングの提案」では、標的タンパク質に結合する際の化合物の立体障害や、化合物の活性向上のために重要なタンパク質との新たな相互作用の獲得は一切考慮しない従来のファーマコフォアモデリングの改善を行うため、タンパク質と化合物の相互作用エネルギーを定量的に予測するフラグメント分子軌道(FMO)法を用いたファーマコフォアモデリングを提案することを目的としている。 本研究の初年度では、インフルエンザウイルスRNAポリメラーゼのサブユニットの一つであるエンドヌクレアーゼとその阻害剤間の相互作用解析を量子化学的手法であるFMO法、及び古典力学的手法である分子動力学(MD)シミュレーションを用いて解析を行った。この標的タンパク質には、変異が入ることによりウイルスが薬剤耐性を獲得するアミノ酸残基が存在する。そのため、アミノ酸残基の変異によるタンパク質、阻害剤間の相互作用様式の変化、及び標的タンパク質への結合に重要な相互作用の特定は、薬剤耐性を回避するための阻害剤の改善に有用な情報となり得る。 現在までにタンパク質と阻害剤間の相互作用解析が終了し、標的タンパク質への結合に重要な相互作用の特定、及びアミノ酸残基の変異によるタンパク質阻、害剤間の相互作用様式の変化の予測を進めており、今後はアミノ酸残基の変異による結合自由エネルギー変化の予測なども加えて、薬剤耐性を回避する構造最適化のためのファーマコフォアモデリングを進めていく。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
インフルエンザウイルスA(pH1N1)のキャップ依存性エンドヌクレアーゼ(CEN)と、その阻害剤であるbaloxavir acid (BXA)の複合体構造に対して、FMO法、及びMDシミュレーションによる相互作用解析を実施し、標的タンパク質への結合に重要な相互作用の特定、及びアミノ酸残基の変異によるタンパク質、阻害剤間の相互作用様式の変化の予測を行った。その結果、阻害剤に存在する三箇所の芳香族特性、3箇所の水素結合受容体特性、及び1箇所の水素結合供与体特性が結合に重要であると予測され、薬剤耐性の原因となるアミノ酸残基の変異箇所と阻害剤がCH-pi相互作用を形成することが示唆された。また、変異が入ることにより、形成していたCH-pi相互作用が消失することも相互作用解析によって予測され、インフルエンザウイルスの薬剤耐性はCH-pi相互作用の消失によって引き起こされることが結果より示唆された。 FMO法を組み合わせることによって、従来のモデリング方法、及び相互作用解析方法では十分に考慮できない量子化学的相互作用についてもファーマコフォアモデルに取り入れること可能であることを確認すると共に、これらの相互作用解析結果、及び薬剤耐性を回避する構造最適化のためのファーマコフォアモデルを公開予定である。
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今後の研究の推進方策 |
FMO法は計算に使用した構造中でのタンパク質と化合物間の相互作用エネルギーを定量的に評価することは可能ではあるが、コンピューター上で構造最適化を行った化合物の標的タンパク質への親和性の変化を評価するためには結合自由エネルギーの評価も行わなければならない。現在、薬剤耐性ウイルスと阻害剤間の相互作用解析は終了しているが、薬剤耐性を回避する構造最適化のためのファーマコフォアをモデリングするためには、変異するアミノ酸残基との相互作用を避けた化合物類が持つ特徴の抽出、及びそれらの化合物類の標的タンパク質への結合自由エネルギーを求めなければならない。よって、次年度はFMO法による相互作用解析に加えてMM-GBSA、PBSA法などによる結合自由エネルギーの予測手法を取り入れ、標的タンパク質への結合に有利な相互作用、及び阻害剤の特徴の抽出を検討する。
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次年度使用額が生じた理由 |
購入を予定していたシミュレーション用のマシーンの発注が遅れたため、翌年度以降に発注を行い、翌年度分の予算は当初の予定通り大規模シミュレーションのためのスパコン使用料、及び国内外の学会への出張費として使用する。
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